【参加報告】地域公共交通シンポジウムin北海道~地域が考える公共交通~

2月15日に「地域公共交通シンポジウムin北海道~地域が考える公共交通~」が札幌市で開催されました。筆者はオンライン参加でしたが、その模様を記載します。

なお、以下のページで動画が公開されています。

国土交通省北海道運輸局公式Youtubeチャンネル

☆地域公共交通シンポジウムin北海道~地域が考える公共交通~【第1部】 2023年2月15日開催
https://www.youtube.com/watch?v=A69szCBeLxc&t=2047s
☆地域公共交通シンポジウムin北海道~地域が考える公共交通~【第2部】 2023年2月15日開催
https://www.youtube.com/watch?v=LGKC4EuEPq4&t=2642s

【基調講演】「北海道の公共交通をより良くするために」 北海道大学公共政策大学院教授 岸 邦宏 氏

岸 邦宏 氏

この20年間で、公共交通をより良いものにしていこう・支えていこうという機運は、少しずつですが増えてきていると思っていますが、実証実験を行おうとすると交通事業者から「お客さんの奪い合いになるだけではないか」といった具合に協議が進まないこともありました。
一方、乗継の利便性向上や共通フリーパスなど、できることからゆるやかに連携を図る北海道型運輸連合を検討しています。同業他社との連携に反発する意見もありますが、JRも参加している十勝型MasSを好事例として注目しています。
「鉄道を利用してもらうためにはどうすればよいか」という視点で、北見市など石北本線沿線の住民を対象に調査・研究を行いました。その結果、移動の質においては、座席の幅などをはじめとした車内空間の向上と、Wifiや自動販売機の設置などによる利便性の向上があげられましたが、現時点ではJRとバスの評価は拮抗していました。JRの高速化(所要時間短縮)や車内空間の向上を行っても自家用車から鉄道へ転換できる割合は数%と低いのですが、JRは「この程度か」などと思わず、この割合をもっと増やすにはどうしたら良いかを考えるべきだと思います。
また、ひとつ言いたいことは、色々と取組んでも車から鉄道に転換できる割合は非常に少ないことは明白で、利用促進と言いながら鉄道を利用していないという実態は、道民ひとりひとりに突き付けられた現実でもあります。公共交通を維持するためには、抜本的に車から公共交通に転換してもらわないと維持できないことははっきりしています。
地域住民が「今は車を使っているけど、将来車を使えなくなった時のために公共交通を残して欲しい」と言うことに対して、「残して欲しいのなら、今公共交通に乗らないと維持できない」ということを多くの人がずっと言ってきました。いよいよ今、公共交通が維持できるか維持できないかの岐路に立たされています。
交通事業者はコロナ禍などを言い訳にせず顧客満足度の向上にもっと努力すべき、行政はまちづくりと交通のコーディネーター的な役割を担い、住民はもっと公共交通の味方になる、そして、次の10年はそれぞれが自分ごととして取組んでいくことが重要であると考えています。

【事例発表】❶「徳島県南部地域における共同経営について ~バス事業者と鉄道事業者による並行モード連携モデル~」四国旅客鉄道株式会社 専務取締役 長戸 正二 氏

JR旅客6社の中で唯一、民営化時より平均通過人員が減少しているJR四国。路線の大半は単線非電化で赤字です。四国における鉄道ネットワークのあり方を議論する中で、交通事業者が協調しシームレスな移動を提供することが示され、パターンダイヤ、モーダルミックス、チケットアプリの導入が進められています。そのひとつとして列車本数の少ない区間を都市間高速バスが補完している牟岐線の事例を紹介。現在は列車とバスを乗り継いでも鉄道の運賃と同額で利用可能となっています。

【事例発表】❷「江差町×サツドラ MaaSプロジェクト ~収益循環モデル『江差マース』の実装化に向けて~」 江差町まちづくり推進課 主事 滝口 朝 氏/サツドラホールディングス株式会社 社長直轄グループ インキュベーションチーム チームリーダー 杉山 英実 氏

今もなお歴史ある町並みが残る道南の江差町(人口約7千人)。高齢化率が約40%と高く、交通空白地域も点在していることから、AIを活用した「オンデマンド交通」の実証実験を2地区1エリアとし2つのエリア(各1社が担当)で実施。この実験は小売事業者等と連携して地域経済の活性化を促し、得られた利益を地域に還元することを目指した取組みです。
一方、江差町と包括連携協定を結んでいるサツドラホールディングスは、ポイントカードEZOCAのデータを用い、健康や教育など様々な地域課題の解決に挑戦しています。今回の移動についてはLINEを活用して利便性を向上させるために高齢者向けのスマホ教室等を行い、利用者の移動から買物までの行動を見える化できたことなどの成果がありました。

【事例発表】❸「持続可能な新たな地域公共交通の導入に向けて ~石狩市におけるオンデマンド交通実証運行の取り組み~」石狩市企画経済部企画課 交通担当課長 上窪 健一 氏

幌市に隣接する石狩市(人口約5.8万人)では、工業団地のある石狩湾新港地域の通勤利用者向けの「通勤オンデマンド」と、花川・緑苑台などの4地区内の「市内オンデマンド」の実証実験を実施しています(3/31まで)。前者は路線バス車両を用い地下鉄麻生駅やJR手稲駅から運行し、運賃は距離制で400~800円。後者はワゴン車を用い、地域内を運賃300円での利用が可能。南北に約80kmの市域を持つ石狩市では、既に交通空白地有償運送も行われていますが、就業者の約6割が札幌から通勤する工業地域へのマイカー利用の抑制など、公共交通のさらなる利便性が望まれていました。今後は必要なサービスを見極めた上で、本格運行に結び付けたいと考えています。

【事例発表】❹「バス路線廃止に伴う取組みについて~地域旅客運送サービス継続事業~」岩見沢市企画財政部企画室 主幹 北辻 覚氏

札幌市から約40kmに位置する岩見沢市(人口約7.7万人)。かつて炭鉱で栄えた万字地区(旧栗沢町)と室蘭本線の志文駅とを結ぶ旧国鉄万字線(昭和60年廃止)の代替バス2路線を廃止する代わりに、新たな交通手段として導入されたのが「東部丘陵線コミュニティバス」です。運賃は最大500円とそれまでの路線バスより同240円安くなり、利用者も廃止前の路線バスと比べて倍近くまで増えています。導入にあたっては、沿線の町会長らと60回以上の話し合いが重ねられているほか、利用促進策として、沿線在住の画家MAYAMAXX氏による運行車両へのペインティング(ラッピングではない)やスマホ等でバスの位置を見ることができるバスロケーションアプリの導入が行われています。

【パネルディスカッション】「地域が考える公共交通」

パネルディスカッション「地域が考える公共交通」の様子

コーディネーター&パネリスト

〈コーディネーター〉 岸 邦宏 氏
〈パネリスト〉長戸 正二 氏、滝口 朝 氏、杉山 英実 氏、上窪 健一 氏、北辻 覚 氏

テーマ1:地域公共交通ネットワーク改善策の強化

長戸 正二 氏

長戸氏:牟岐線のパターンダイヤは60年前にバスへの対抗策として行っていた過去がありますが、車両繰りの都合で1~2年でやめてしまいました。現在は、人口減少、乗務員不足もあり、阿南駅以南の本数を減らさなければなりませんでした。そこで、一番の難関と思っていた徳島バスに協力を仰ぎに行った際、同バスも同様の環境下にあったことで提案が歓迎され、事業者間の連携においては苦労しませんでした。
一番大変だったのは独占禁止法に抵触することと社内の調整でしたが、前者は四国運輸局が親身に対応していただき、書類を書くだけで済みました。実は後者が勤務時間の問題等もあり、一番大変でした。
全て鉄道で賄おうとすると効率が悪く、朝夕は鉄道、昼はバスかデマンド交通にするなど、需要に応じて移動手段を変えた方が地元のためになるはずですので、全体で地域の足を維持したいと考えています。利用者には鉄道でなければいけないという固定観念がありますが、バスも利便性が高いことを知ってもらうと評価があがってきます。

岸氏:利用者の増加に一番効果的な方法は何だったのでしょうか?

北辻氏:新しいサービスを認知してもらうことが重要です。みんなで新しいサービスを作るという意識であったり、乗務員の対応が丁寧というのも評価が高いです。東部丘陵線ではありませんが、高齢者宅の前で実際に予約し、配車されて乗車するまでを実演したこともあります。

岸氏:運行時間帯やバス停数から、利用者のターゲットを絞り込んだように見えました。

北辻氏:主な利用者を高齢者の通院と高校生の通学・帰宅としました。

テーマ2:交通と他分野の連携

滝口 朝 氏

岸氏:交通と他分野を連携するにあたって、江差町はどのようにコーディネートされたのでしょうか?

滝口氏:江差町とサツドラは、3年前から協定(包括連携による協業事業の実施に関する協定)を結んでいます。交通事業者は、サツドラがどういうことをするのか多少疑問を持っていたこともありますが好意的でした。EZOCAの枠組みを使ったこの試みはサツドラも初めてだったので、町はサツドラと交通事業者を結ぶかけ橋となるよう努めました。

岸氏:サツドラにとって大変だったことと、メリット等の新たな発見は何だったのかを教えてください。

杉山氏:「自分が車に乗れなくなったらデマンド交通に乗る」という意見が多く、実際にはなかなか乗ってもらえないことがわかったことが新たな発見でした。一方、Maasエリアの利用者は、サツドラの利用においての客単価は変わりませんが、来店頻度が増えたことがメリットでした。
また、江差町で展開した理由は、江差町の商圏規模が現在の8千人から5千人に減ることが予想され、道内の各町でも同様の規模になると見込まれることなどから北海道の課題が集約されていたという点と、町長のリーダーシップです。

杉山 英実 氏

岸氏:通勤・通学は毎日のことなので、ニーズをつかめば交通事業者にとって収入増につながると思います。

上窪氏:企業に足繫く通い、最大公約数の意見を拾い集めました。当初、「距離に比例する運賃は高い」という意見が多かったのですが、高くても真に利便性の高い交通を求めたいといった意見が多かったです。これからも的確なニーズに合ったサービスを展開したいと考えています。

岸氏:北辻氏と上窪氏は、市民に対する愛情を感じますね。
無料やワンコインを否定しませんが、「自治体の負担を減らす」という視点では、持続可能な運行を維持するために受益者負担をどうするかについては重要な課題だと思います。江差町ではどのように考えていますか?

滝口氏:サービスの対価を運賃収入だけで賄うのは不可能なので、検討中です。

岸氏:移動した先で何をするのか。買い物など、トータル的な支払いも考える必要があります。

テーマ3:DX・GXの活用

上窪 健一 氏

上窪氏:「いつモ」には9割の方が満足しており、手応えを感じています。他業種の連携としては、イオン石狩緑苑台店に快適な待合室を作っていただいたりもしました。また、中央バス石狩営業所のご協力により、石狩市の公式LINEに中央バスの路線ごとの運休情報を流せるようにし、運休が決定したら即時に配信してもらっています。現在、公式LINEには約3千人が登録しています。

滝口氏:地方のマンパワーは限られています。はこだて未来大(未来シェア)の知見を活用しています。
スマホに不慣れな後期高齢者にデマンド交通はちょっと難しいですが、約3千人弱が登録しているLINEの公式アカウントを活用したことで、利用が伸びています。
その一方でシンプルなシステムも必要と考えていますし、デマンド交通の利用者が増えると待ち時間が増えるので、改善が必要と考えています。

杉山氏:アプリのダウンロードがピンとこない高齢者でも、LINEでできるというのはアドバンテージです。LINEは60代であればほぼ使えますし、70代も半分くらいは使えます。
コストはそれなりにかかりますがが、横展開していきたいと考えています。ただ、本当に電話はいるのか、コールセンターに任せればよいのではないか等、必要なものを精査しコストを削減していきたいと思っています。

岸氏:JR四国のチケットアプリ(しこくスマートえきちゃん)の導入経緯、その効果や評価はどうでしょうか?

長戸氏:他のJR各社と同様にICカードを導入したかったのですが、初期投資と維持費の面から断念しました。でも何かできないかと考えた結果、目視で確認できるアプリでした。
しかし、利用者が増えると大きな駅では有人改札の利用人数が増えたため、大規模な4駅についてはQRコードを付与し、自動改札機を通れるようにしました。

北辻 覚 氏

北辻氏:岩見沢市には、JR2路線、市内・郊外のバス路線、タクシーと色々あります。今後はDX・GXを取り入れながら、地域に何が必要で何が適しているのかを考えて取組んでいきたいと思っています。

上窪氏:「いつモ」ができたから外出できるようになったという声もありますが、今後はこのアプリに地域情報を入れて発信していきたいと考えています。また、移動する人にとって行政の境界は関係ないので、隣接市とも連携をはかっていきたいと考えています。

杉山氏:EZOCA IDがあるのが強みです。このデータを基に最大限活用していきたいと考えていますが、さじ加減は住民の声をよく聞いて判断していきたいと思っています。

滝口氏:実証実験は1月末で終了しましたので、分析後、今年度中に連携計画を策定し、運行体制を整えたいと考えています。

長戸氏:鉄道の場合は駅から(まで)他の交通機関が必要です。災害時の共同運行なども含めて、連携を深めていきたいと考えています。
ことでん(高松琴平電気鉄道(株))では、高松市が補助をしてバスと電車の割引額を拡大していますが、このような取組は家から目的地まで行きやすくなるので、利用者と交通事業者の双方にメリットがあると考えています。

岸氏:共同連携については、今日の事例をそのまま各地に落とし込んでもうまくいかないのは明白です。最後は、「自分ごと」としてどうするかを考えていかないといけません。
今日のパネリストは、相当苦労されたり辛い思いをしてきたことと思いますが、他分野と連携していくには、まずは行政から連携を深めていくと良いと思います。

(文責:松本公洋)

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