【参加報告】講演「EU交通政策と人口減少地域の地域公共交通」
この講演は、7/25(金)北海道EU協会(※)の勉強会(札幌)として開催されました。講師は(一財)交通経済研究所 主任研究員 遠藤俊太郎氏。EUにおける交通状況や交通政策、ならびに人口減少地域における地域公共交通について、多くの事例を交えながら日本との考え方の違いなど示唆に富んだお話をお聞きすることができました。
※北海道EU協会は、北海道とEUのビジネス・交流深化を目指し、2014年度に設立された団体です。

1.EUにおける交通の状況
EU諸国はきれいな街並みと発達した公共交通網のイメージがありますが、都市部と地方部では大きく異なり、路線の廃止も行われています。公共交通は「まとまって乗る」から良いのであって、需要が少なければそれに合わせてデマンド交通などに変えていく必要があります。また、EU各国の人口分布においては、一極集中が進む都市部で人口が増え人口の希薄な地方部では減少しています。特に、旧西・東ドイツにおいては、自治体の成長と衰退の傾向が顕著に現れています。
2.EUの交通政策
EUにとっての交通・運輸部門は、「欧州統合の基礎」であり、自由な移動の実現と環境負荷低減に欠かせないもの等と位置付けられています。「環境に優しく(持続可能性)」、「デジタルソリューションの推進」、「より速く、より安全に移動できる近代的なインフラ網を整備」が進められており、鉄道においては、主に幹線において2040年までに160km/h運転の実現と信号システムの統一などを目指しています。
EU各国にはさまざまな乗り物が存在しますが、スウェーデンでは路線バスの車体後部を大きく改造した貨客混載が行われています。また、同国においては日本に比べて運賃収受のキャッシュレス化が進んでいますが、その大きな要因は「強盗対策」にあります。一方、鉄道においては、公的資金による大規模投資で利便性を向上させた鉄道や観光等に特化して公共輸送を担わない鉄道、脱炭素化に向けた取組みなども行われています。
3.地域公共交通のしくみ
地域公共交通の運営形態としては、一部に日本と同様に民営の事業者に運行補助を行っている形態が存在するものの、その多くは自治体が運行ルート等のサービス水準を策定し、事業者に発注するスキームとなっています。ドイツにおいては運輸収入における運賃収入の占める割合は約4割となっていますが、それを「赤字」とは言いません。日本では事業者が負担している学割などの割引分も、補助はあくまで本来入るべき収入の減収補填として考えられ、収入として計上されています。一方、複数の事業者が運行していることから共通運賃を導入し利用者の利便性が図られている場合は、その裏側で一旦プールした運賃収入の分配方法をめぐり、事業者間で必ずもめごとが起こります。
4.人口減少地域の公共交通
ドイツでは過去10年間、公共交通全体の利用者が伸び続けているにもかかわらず、地方部においては利用者の減少が続いています。その背景には、地域で活動する人がいないことや運転免許の保有状況などから公共交通を選択しない人が増えていることがあげられます。また、鉄道を廃止し何らかの輸送手段に変えることは「格下げ」のイメージがつきまといますが、もっと生活を便利にするためにサービスレベルを格上げするといった「発想の転換」も必要です。
運輸連合(州・市・郡が100%出資)が管内全域の公共交通をカバーすることにより、共通サービスを異なる事業者が提供している地域(ヘッセン州・北ヘッセン地方)や、補助により行われていた民間事業者から行政主体に変換し、郡内のバス運賃を共通化した地域(バイエルン州・クローナッハ郡)などがあり、どちらも利便性を向上させながら公共主導により持続性を担保しています。
赤字か黒字かで議論されることの多い日本の公共交通事業ですが、交通事業者が不動産などの非交通事業を営み交通事業を担っている場合があることについては、欧州では逆にそういう手もあるのかといった反応が示されることもあります。
5.欧州から日本へ
利用の低迷や担い手不足など、EU諸国の公共交通を取り巻く現状も日本と類似しており、民間から行政主体に転換することがひとつのヒントと考えられるものの、「単に他国の模倣などをせず、交通事業者の経営が成り立つ環境をつくっていくことが必要」です。


