【参加報告】第20回日本モビリティ・マネジメント会議(JCOMM)
9/12~13の両日、日本モビリティ・マネジメント(※)会議(JCOMM)の記念すべき第20回目が、札幌コンベンションセンター(札幌市白石区)で開催され、道内外から600名以上が参加しました。
※モビリティ・マネジメント(MM): 渋滞や環境、あるいは個人の健康等の問題に配慮して、過度に自動車に頼る状態から公共交通や自転車などを『かしこく』使う方向へと自発的に転換することを促す、一般の人々や様々な組織・地域を対象としたコミュニケーションを中心とした持続的な一連の取り組みのことを意味します。具体的には、コミュニケーション施策を中心として、様々な運用施策、システムの導入や改善、それらの実施主体の組織の改変や新たな組織の創出などを実施しつつ、持続的に展開していく一連の取り組みを意味します。(出典:JCOMMホームページ)
◆開催地企画「他分野との共創による移動の確保やMMの取り組み」
【基調講演】神田佑亮氏(呉工業高等専門学校環境都市工学分野教授)
ローカル線の維持や運転手不足など、コロナ渦以前から問題になっていたものの手を付けられなかったものが「コロナ渦で大きな問題としてあぶり出された」。一方、以前から移動回数そのものが減少し都市部に人が出なくなっており、まちの衰退に拍車がかかっているとした上で、自らが携わる庄原市(広島県)の事例を踏まえ、「データに基づき地域の関係者と議論を始めることが『共創』の第一歩である」と示唆されました。
【パネルディスカッション】
道内における医療、教育、商業の各分野と交通との共創事例が各登壇者から紹介され、意見交換が行われました。医療分野では、札幌市南区で訪問介護を受けている高齢者へのニーズ調査を踏まえ、イオン北海道(株)等と連携して外出支援の実証実験を行った(株)かんごぷらすは「移動手段がなくて人と話をすることもできなくなった高齢者にとても喜んでもらえた。元気になれば公共交通でお出かけしてもらいたい」と中田亜由美氏(同社代表取締役社長)は実験の手応えを示されました。
教育分野では、公共交通を題材とした「札幌らしい交通環境学習プロジェクト」の内容が小学校の副読本に載るとともに、札幌市教育課程編成手引きにも掲載され授業計画に活かされている。この事業により、札幌市のまちづくりの変遷が子どもたちに見える化されるようになった」と佐々木英明氏(北海道文教大学人間科学部准教授)が教員時代の経験を踏まえて述べられました。
商業分野では、内陸部の移動手段が手薄となっていた江差町において、(株)サッポロドラッグストアーと連携しAIデマンド交通と電子マネー江差EZOCA(全道のサツドラで購入した金額の0.2%が江差町に還元される)の導入により、買い物の需要喚起と移動手段確保の相乗効果を狙い、「副産物として江差EZOCAの利用による還元額も大きい」と白澤亮介江氏(江差町役場まちづくり推進課主事)は話しました。
西山直人氏(国土交通省総合政策局地域交通課課長補佐)は「補助金を執行する立場としては取組み内容を紙で拝見しているが、実際にその声を聞いてみるとさらによくわかった。新しい挑戦に制度の“壁”があれば取り除けるようにしていきたい」と語られました。
オープニングセッション「20 年のJCOMM の歩みとこれから」
【基調講演】藤井聡氏(京都大学大学院工学研究科教授、JCOMM代表理事)
改めてMMの考え方を踏まえた上でJCOMMの20年間をふりかえり、第1回開催時と今回ではGDP(国内総生産)が2位から5位に下がり今の日本には余裕がなくなった。非常時のような時こそ「MMはnation(国家的)で取組むべきで、今までの取組に加えて、行政、地方政界(首長)等に働きかける必要がある」と述べられました。

【パネルディスカッション】
JCOMM創設に深くかかわった11名をパネリストにし、フィリップボードに回答を書く大喜利スタイルで進められました。各々にとって「MMとは?」、「MMの今後の可能性」といった問いかけに思いのこもった回答が示され、「20回続くと思ったか?」については、開催当初、続くか続かないかがほぼ拮抗していたことを伺い知ることができました。

◆企画セッション1「公共交通の未来を考える 〜ピンチをチャンスに〜」
話題提供・パネルディスカッションにおいて、路線バス廃止に伴う余市~赤井川間の代替バス「むらバス」の導入に携わった高松重和氏(赤井川村保健福祉課課長)は、「村唯一の公共交通である路線バスの廃止が決定し腹をくくった。過去の所属部署のつながりなども駆使して村民と徹底的に議論し作り上げた」。様々な工夫を重ねてむらバスの利用者は右肩上がりに増え、現在は年間3万人近くが利用されています。
一方、神戸市では、路線バス、コミバス(バン)等による貨客混載の実証実験として、兼ねてから取引のあった「農産物直売所×駅前飲食店」での野菜輸送、「駅前飲食店×地域住民」でのパン等の輸送を行い、「買い物支援をしようとしてもうまくいかない。どうしたら継続できるか知恵を出し合ってきた」と郡佑毅氏(神戸市都市局駅まち推進課係長)は、同市の人口減少を踏まえた取組を紹介されました。
続いて、小田急バス(株)とともに高齢化率の高い団地付近にあるバス転回場周辺の整備に携わった(株)ブルースタジオは、「第1種低層住居専用地域では居住者の商売は認められているので、転回場付近ににぎわいが出るよう、パン屋、書店等を営む多種多様な13店舗(戸)に入居してもらった」と大島芳彦氏(同社クリエイティブディレクター)が手ごたえを話されました。また、第2弾を深大寺(東京都調布市)で展開するとのことです。
口頭発表
北海道・札幌市から九州・熊本市まで5組が取組みを発表。それぞれフロアとの質疑応答が行われました。そのひとつ、岡田龍太郎氏(川西市(兵庫県)議会議員)の発表では「地方議員が陳情等を言うだけなのに違和感を覚え、自ら地域公共交通の維持・存続に立ち向かった」とし、「全国の地方議員3万人がもっと勉強し真摯に課題に取組むべき」と熱のこもった発表をされました。
企画セッション2「ドライバー不足、交通空白」
ここ数年特に大きな課題とされているテーマについて議論が交わされました。交通事業者から進矢光明氏(広島電鉄(株)交通政策課長)と安部耕太郎氏(松江市交通局交通安全運行課課長補佐)が、それぞれの社・局の状況を踏まえ、乗務員の待遇を改善しているが働きやすさはまだ途上の部分があるとした上で、労組・営業所等のルールや個人の事情を加味した上で勤務シフト(交番)に落とし込むのは「担当者の伝統芸。言わば“秘伝のたれ”」(進矢氏)。また、「多数のシステムを導入しているが、実態に合わせてカスタマイズもできないので修正作業も多い」(安部氏)と、IT化が進む現在においても、効率化ができない苦悩をうかがい知ることができました。
根室市でも実証実験で導入されている乗合型移動サービスの運行管理システム“Mobi”を提供しているCommunity Mobility(株)は「このシステムを導入して4自治体で行っている公共ライドシェアでは、運転手が2つ以上の自治体で運転してもらえるというメリットがあり、複数の自治体を運転してもらうためのインセンティブも設けている」(同社代表取締役副社長 松浦年晃氏)
今日はあくまで個人の立場と前置きした上で話をされた、フランスのバス会社に出向した経歴を持つ板垣友圭梨氏(国土交通省)は、「フランスで行っている徹底したデータ分析によるバス運行の効率化や問題を可視化することで自治体への説得材料とすることなどは、ルーティン化すれば日本でも十分実現可能」と考えているとのことでした。
最後に、「基本は課題に対して関係者できちんと議論することに尽きる。利用者に伝わる情報提供は集約整理しておかなくてはならないが、提供者には財源が必要。行政・大企業等にお金を出してもらうために政策投資効果を出していくという理屈をもっと前面に出せるようにしたい。日本の市民・企業には底力があり、みんなで少しずつ助け合うことが重要。人口は減少していくが関係人口を増やして、そういった方々に移動サービスに参画してもらう働きかけも大事なことであり、地域が元気になることがゴール」と中村文彦氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授)がまとめられました。
開催期間中、3回に分けて行われたポスター発表では各地で取組まれているMM関連の事例が過去最大となる137本が出展され、マネジメント力やデザイン性等を評価するJCOMM賞においては、合計7団体が受賞をされました。次回は、2026年9月に湯沢町(新潟県)で開催される予定です。
この会議の概要集や使用されたプレゼンテーション資料は、JCOMMホームページで順次公開されるとのことです。









