【参加報告】「くらしの足をみんなで考える 全国フォーラム2018」①1日目

10月27・28日の2日間「くらしの足をみんなで考える 全国フォーラム2018」(主催:同フォーラム実行委員会)が、東洋大学(東京都文京区)で開催されました。今年で7回目を迎え、300名を超える参加者が熱く語り合いました。今年のテーマは「本音で語り合おう、知り合おう、そしておでかけを楽しくしよう!」です。

【1日目】
「くらしの足概論」
◆基調講演
「誰がつくる?外出の拡大 『生活を支える交通』から愉しみの交通」へ」

土井勉氏

ご講演中の土井勉氏

土井 勉氏(大阪大学COデザインセンター
モータリゼーションの進展でみんなが勝手に好きなところに行けるようになったことで中心市街地が衰退し、公共交通は利用者や収入の減少などにより負のスパイラルに陥りました。そもそも交通は究極的には“どこでもドア”が良いのかもしれませんが、移動する時間も大事です。
クルマさえあれば住みやすい所なのかといえば、加西市(兵庫県)の調査を例にあげると、免許がないなど「クルマを気軽に利用できない人」(≒送迎してもらわないと自由に移動できない人)が約30%います。送迎は“美談”のように言われますが、送迎する人もされる人も送迎に合わせた生活を強いられるため、そういう地域では人口の定着も難しくなります。同市を走る北条鉄道では、近年通学利用が減った一方で通勤利用が増えていますがその理由がわかっていません。減った理由は調べますが、増えた理由はなかなか調べません。

講演資料の一コマ。

買物、レジャー、通院などのトリップ数を自動車免許の有無で比べると、「通院」は免許の有無による差はありませんが、レジャーなどではその差が大きくなっています。人間には、食べることや寝ることなど5つの基本的な“必要”なことがありますが、知人との交流や趣味などの「遊び」も重要な要素となっています。
くるくるバスが運行している神戸市の住吉台地区などでの調査結果では、通勤・通院などの生活に必要不可欠な移動のほかに、スポーツ・習い事等に参加するための“愉しみの交通”が顕在化されたことがわかるとともに、7~8割の方がバスは地域の「安心できる存在」になっていると回答しています。

 

◆話題提供(1)
「『互助』による輸送と地域支援事業」

服部真治氏

ご講演中の服部真治氏

服部真治氏(医療経済研究機構研究部総務部次長)
「許可・登録を要しない輸送」(互助による輸送)は白タク行為と誤解をされそうですが、国交省明確化しおり、近所づきあいなどで車に乗せてあげる時のガソリン代等の実費負担は認められています。
一方、厚労省では、介護予防による介護保険給付の抑制や高齢者の社会参加を充実させる観点から、互助輸送を担う生活支援コーディネーター(地域支え合い推進委員)を全中学校区(約5,000人)に配置しようとしています。

 

 

 

講演資料の一コマ

高齢者が地域サロンに参加することにより要介護認定率が低くなっていますが、参加する人の数は自宅とサロンとの距離が200mまでを境に大きく減少することがはっきりしており、サロンへの“足”を作ることが必要です。
そのための移動手段のひとつとして、総合事業における訪問型サービス「D」(道内では網走市等で実施)があげられますが、「D」では通院時の買物等への支援も可能で、防府市(山口県)では社会福祉法人がバスを提供し大型スーパーが空き施設を提供するなどの協力により、介護予防や見守り活動が行われています。

 

◆話題提供(2)
篠塚恭一氏(日本トラベルヘルパー協会理事長・(株)SPI あ・える倶楽部代表理事)

篠塚恭一氏

ご講演中の篠塚恭一氏

バリアフリー旅行が始まった頃、“旅する権利はすべての人にある”という発信をしていました。バリアフリー旅行には、①バリアフリー情報の提供、②透析などの医療サービス付のサービス、③健康不安がある人向けの介護サービス付の旅行サービスという3つのサービスがあります。
その一方で、旅行途中に脳卒中で倒れた時や海外で難病の手術を受ける時など、愉しくない時の旅行サービスも行っていますが、自宅からターミナルまでは介護タクシーなどの地域の足の担い手と連携しています。
旅行は、主体性を持って本人が行きたい場所に行くことが重要ですが、万が一のことがあったら心配ということや費用の面からご家族が反対されることも多いです。しかし、高齢者は“何かある”のが当たり前で、サービスは100点でなくても良いと考えているものの主治医の許可は絶対に必要です。

 

講演中の一コマ

今日ご紹介する事例は、元特攻兵の92歳のおじいちゃんにその娘さんがお風呂に入らせてあげたことや、毎月の夫の命日に坂の上にあるお墓におばあちゃんをお連れしたり、大事な思い出の場所に行きたいといった要望を叶えたことなどです。昨今、福祉機器も充実し、玉砂利の敷いてある場所や水の中に入れる車いすなどもあり、色々な場所に行くことが可能になってきました。

 

 

◆討論:パネリスト 土井勉氏、服部真治氏、篠塚恭一氏
コーディネーター:及川孝氏((有)フタバタクシー

パネルディスカッション

パネルディスカッションの様子

及川:「楽しみ」はワイワイがやがやした感じのたのしさ、「愉しみ」は心のわだかまりがないたのしさだそうですが、今日は「愉しみ」の方の意味を踏まえて進めていきたいと思います。

土井:移動と言うと通院・買物にフォーカスされますが、愉しみの交通は生活に彩りを添えるものと思っています。人との交流が介護予防・寿命の増進などの効果を生むということですが、交通計画を立てる側にはなかなかわからないことなので、これからは厚労省と国交省の取組みをうまく組み合わせていくことが必要だと思いました。

服部:厚労省には、地域共生社会の実現を目指す「我が事・丸ごと推進本部」という部署があります。「我が事」とは、地域の困っている人を自分事として考えられるようにすることで、人のために役に立つということは健康増進もつながります。
また、「丸ごと」とは、人口が減少する中でケアしなければならない人が増えることから、高齢者も障がい者もわかる人のことですが、人と人をつなげるのが生活支援コーディネーター人と場所をつなげるのが交通だと思っています。

篠塚:モビリティの課題が解決すると、ほとんどの課題が解決すると思っています。90代の実母をみても、通っている介護予防のためのサロンの参加希望者が増えて抽選に当たりづらくなり、家族による送迎も曜日が限られてしまうことから「他の人に譲る」と毎年言いながらもずっと通っていますが、「他の人に譲る」というのも誰かの役に立ちたいことの表れだと思っています。
誰かのためになっていることは重要で、太古の昔、1箇所だけで生活していると生き残れなかった人々は、自分のためではなく仲間のために移動していました。

土井:都市の構造は、コンパクトな生活圏から広域になり、歩いて行けない形に変化してきました。街をコンパクトにしてネットワークを作るよりも、ネットワークをきちんと作ることが先ではないかと思っています。
武雄市(佐賀県)の若木集落では、コミュニティバスと路線バスの乗継拠点となっているコミュニティセンター(若木公民館?)でお弁当を食べたり、センターの近くにはJAや美容院もあって、地域の人がお出かけしたい場所と手段がセットになっていますので、そういった場所を増やしていくことが必要なのかもしれません。

服部:介護予防は愉しい生活をするためにも必要ですが、予防のために「体操してください」と言われてする人はそんなにいません。地域に愉しい場所をたくさん作らないと健康につながりませんが、場所があったとしても遠かったり、自分の体で行く自信がなくて不安だったりすることがあります。そういったところでも、自分が参加することができたと思えることが必要なので、そのための移動ツールなどをもっと知りたいです。

篠塚:介護保険導入前、公衆トイレのバリアフリーに関する情報を知りたくて、外出に困っている高齢者からお話を聞こうと都の区役所に伺ったところ、障がい者は手帳があるので把握していましたが、そのような高齢者は把握していませんでした。
高齢者であっても、氷川きよしに会ったり、ディズニーランドに行くと明るくなります。兄弟デュオ・ビリー・バンバンのお兄さんのケアもしていますが、大事な人との想い出をたどる旅として、家族にはなかなか頼めない初恋の人に会いに行くということもやっています。

服部:福祉の分野からは地域公共交通会議等とどう連携していけば良いのでしょうか。以前、新聞に「我が事・丸ごと・きれいごと」と書かれてしまいましたが、わかりません。

土井:交通系の会議は交通がメインで、なかなか福祉・観光・教育などの部門と話す場になっていないためにいろいろな活動をしていますが、きちんと話し合える枠組みを作ることが必要ではないかと思っています。

及川:土井先生は「○○○に行かなければならない以外の交通」は“愉しみの交通”と呼んでおられますが、その“愉しみの交通”を顕在化させる方法を具体的に教えてください。

土井:今までの交通計画では、通勤・通学などのピーク時といった力の強いものに合わせてきましたが、人口減少社会の計画では、力の弱い人に手を差し伸べることで、人々の生活と健康を支えるといった新しい概念が必要だと思います。
例えば、エコ通勤によって公共交通の利用が増えても公共交通の黒字化は無理ですが、健康が増進されることは愉しいことですし行政コストも下がるので、その下がった分を公共交通に回すべきです。日本の自治体の公共交通に関連する予算は一般会計の1%以下で、それだけでは無理があります。交通には、他の領域にも良い影響をもたらす「クロスセクター効果」があるのですから、他の領域の予算も振り向けるべきです。

篠塚:約20年前に介護保険が導入された際、担い手は定年を機にリタイアした人などが中心でしたが、そろそろ息切れしてきています。構造を変えていかないとなりませんが、人が愉しく生活するための支援に対して、どこまでが税金でどこからが私費なのかを線引きすることが共生社会の難しさです。とはいえ、支援の対象内容を議論してきちんと決めないと、若い人がついて来ないと思っています。

服部:土井先生のお話しの4つのポイントのひとつに「共有」がありました。公共交通と互助輸送は幹線と支線のようになっていてケンカしていませんので、それぞれ何がしたくて何ができるのかを共有することは重要だと思いました。

土井:共有は大事なキーワードですが、明るくやることが大事です。高校時代、ガールフレンドから「人は虫と一緒で明るいところに集まるんだから、もっと明るい顔をしなさい」と言われたことがありました。無理やり愉しむということよりも明るく接することが重要で、公共交通の話題はドライバー不足などで暗くなりがちですが、地域に対してこんなに役に立つ仕事なんだということをもっとアピールしていくと良いと思います。

この後、全参加者が5人程度の小グループに分かれてグループディスカッションを行い、各地の抱えている課題や愉しい外出を創出などについて話し合われました。大きなフォーラムでほとんど知らない参加者全員が相互に話し合える場を設けているというのは、このフォーラムの最大の特徴だと思っています。懇親会もあっという間に時間が過ぎてしまいました。

(文責:松本公洋)

懇親会の様子(お話し中の十勝バス野村社長)

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