【参加報告】公共交通の利用促進に向けたキックオフフォーラム①
オープニング
2018年12月22日(土)札幌パークホテルで開催された「公共交通の利用促進に向けたキックオフフォーラム」(主催:北海道鉄道活性化協議会、司会:水本香里)では、約600名(北海道新聞発表)の方が参加され、それぞれの立場からの鉄道をはじめとした公共交通の利用促進について議論が行われました。
オープニングは、北海道150年若者映像コンテスト(10代部門)グランプリ受賞の作品「NorthExpress」が放映されました。
NorthExpress
【基調講演】 「みんなで乗って、未来を変えよう!」~道民自らが創る、まちと公共交通の未来~
岸 邦宏 氏(北海道大学大学院工学研究院准教授)
500万人×4,000円
北海道の人口を500万人として、道民ひとりが1年間に4,000円JRに乗れば200億円ですので、それだけで赤字が解消できます。都市間バスの利用者をJRに転換させるのではなく、車からJRに転換させることを考えると、都市間移動では車1台当たり1.3人、札幌→旭川間(片道)は1日1,809台走っているという調査結果がありますので、1,809台×1.3人×10%×Sきっぷ/2≒60万円/日の収入増になります。同様に各都市間移動を車からJRに転換すると、その割合と金額は年間で10%-53.7億円、15%-80.6億円、20%-107.4億円になります。
モビリティ・マネジメントとサービスレベル
この数字を本当に達成できるのかについては、モビリティ・マネジメント(MM)を行うと2割が行動変容するという研究結果がありますので、車移動10回のうち1~2回はJRに、あるいは、いつもJRを利用している人がもう1回乗り、これをオール北海道で行動していけば実現できます。しかし、「ただ使いましょう!」だけでは不十分で、利用したいと思えるサービスレベルが提供できているかという検証を続けていかなければなりません。
今年9人の学生を帯広に送り込むのに「えきねっとトクだ値」で予約をしようとしたところ残席がわからず、何枚買えるかがわかりませんでした。また、特急オホーツク号のお手洗いが汚いという声を聞いたことがありますが、車両が古いのは仕方ないにせよ、もっと利便性を高めることはできるはずです。
シームレスで利用促進
私が座長を務めた北海道交通政策総合指針における重点施策では、北海道新幹線の札幌延伸となる2030年までに、生活交通・広域交通・幹線交通をシームレスなネットワークに構築することをうたっています。つまり、交通事業者が一体となって公共交通全体を便利にすることが利用促進につながっていくということです。
地域公共交通
地域の公共交通は地域で維持するということが地域公共交通活性化再生法に明記されていますが、地域住民の通院・買物等の日常の交通である「地域公共交通」を今一度考えてみたいと思います。札幌-稚内・網走は東京-名古屋間とほぼ同等で300km以上ありますが、航空機が飛んでいるような区間を果たして地域公共交通といえるのでしょうか。ここが、JRへの財政支援を迫られる沿線市町村との折り合い合がつかない点ではないかと思っています。
幹線は、国交省が全国幹線旅客純流動調査として調べられていますが、基本は都道府県を①1つのゾーンとしているものの北海道は4つのゾーンとして扱われています。(国交省の幹線鉄道旅客流動実帯調査では1つのゾーン)
宗谷線や石北線を地域公共交通とするのか幹線として扱うのかを整理し、地域公共交通とするならば今の制度では難しいので制度を変えていく必要があると思っています。これは、国にお願いすれば良いということではなくて、乗らないと制度は変わっていきませんので、全道民が態度で示すことが重要です。
【特別講演】おいしいローカル線の作り方
鳥塚 亮 氏(NPO法人おいしいローカル線をつくる会理事長)
廃止するなら自分たちでやる
いすみ鉄道は千葉県内を走る鉄道でかつては木原線という旧国鉄の支線でした。北海道の鉄道は“横綱級”ですが、こちらは“序の口”です。お金がないから今あるものを上手に使うしかないんです。
感情論からの「残そう運動」は40年前の話。いすみ鉄道の各駅の清掃・草刈りなどは地域の人たちがやっています。国鉄時代に「廃止しなさい」と言われたので、「それなら自分たちでやってやる」といって始まった第3セクターだからなんです。地元の高校の生徒会にはいすみ鉄道対策協議会というものもあるくらいです。
ある時、「何で駅の掃除をしているの?」とおばちゃんに聞いたら、「駅は玄関口、お客さんが来て汚かったら恥ずかしいでしょ。そんなの当たり前よ。」と言います。でも誰も列車で来ない。そこで、住民を喜ばせようと列車で観光客を連れてくるようにしました。
千葉のムーミン谷
ムーミン列車はムーミンたちのステッカーを貼っただけです。昔は、遠くに行ってうまい物を食べるのが旅行でしたが、今の若い人たちは金がないから非日常が味わえれば旅行なんです。地元の人は、駅のそばを「千葉のムーミン谷だ」と言って案内しますが、もちろんムーミンなんていません。ムーミンの着ぐるみを頼んだら1日15万円、そんなお金なんてありません。
ムーミン列車でだんだんお客さんが増えてきたので、旧国鉄のキハ52形(昭和40年製)を買ったら、今度は撮り鉄さんが大勢来るようになりました。元々国鉄の路線だから沿線にはこの列車が似合い、走ると昭和の風景になるんです。駅周辺にミゼットやボンネットバスが勝手に来たりもしましたし、フォークソング列車やジャズ列車も走るようになりました。
国鉄と昭和と原風景
そしたら、もっとお客さんが増えて買った車両が旧国鉄キハ28形(昭和39年製)です。地元の食材でお食事を提供するレストラン列車として走らせて5年目になります。ボックス席にテーブルをかけたら、食事を出せるのではないかと思い付きました。古い車両なので揺れますが、ワイングラスが倒れない特製の台を作ったりもしました。この列車には富裕層も来ればテレビ番組も来ました。
ここまでやっても鉄道事業は赤字ですが、来てくれた人々が地域にお金を落としてくれることを考えれば、鉄道の関連事業として収益の上がる部分を地域の人たちにやってもらえば良いというのが私の考え方です。
鉄道は子どもの遠足にも使ってもらっていますが、子どもの原風景に鉄道があれば大人になっても鉄道を大事にするんです。私がそう。ローカル線は故郷を大事にするという力もあるんです。線路沿いで親子稲刈り体験を行っていますが、子どもたちはこの時の風景を忘れないですし50年・60年と鉄道を大事にしてくれます。だから、こういうことをきちんとやりましょうと言っているわけです。赤字や黒字というのは費用的便益性の話ですが、鉄道は地域に社会的便益性をもたらす事業なんです。
ビッグチャンスですよ
茅沼駅(釧路管内)は私の駅なんです。国鉄清算時事業団から300万円で駅前の土地を購入しました。何らかのリターンを望んでいたのではなく、日本で唯一丹頂鶴の来る駅が俺の駅になるからです。田舎でも田んぼに列車が走る風景はただの田舎ではなく、インバウンドにとっても魅力的です。
今、沿線の菜の花や桜の木を地域の人たちが育てたローカル線のいすみ鉄道は、テレビが来る、特産品が生まれる、経済が潤う、あわよくば移住者が来るという形で、地域に恩恵をもたらしているのです。“序の口”のいすみ鉄道にできて、“横綱”の北海道にできないはずはありません。
道内では既に始めている地域もあります。お金のある・なしを言ったら日本の田舎は全部赤字ですが、大都会の人間からみれば北海道は憧れ!これはビッグチャンスです。