【参加報告】第11回くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2022③

2日目は、学識経験者による基調講演、実務経験者・専門家による話題提供に加えてパネルディスカッションが行われ、国内外の事例等を踏まえた上でバスによる基幹輸送やバスの社会的価値を高めるアイデア等について議論されました。

果たして、もうバスにできることはないのか、まだバスにできることはあるのか…

【基調講演】バスによる幹線輸送の魅力と可能性

中村文彦氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任教授)

「枝(支線)・幹(幹線)のどちらも重要ですが、幹が倒れてはいけません」1980年代に都市新バス施策が展開され、六本木(東京都)を皮切りに、1路線に対して集中的に1億円の予算を投下したものの徐々に投資が分散化、オムニバスタウン事業を経て縮小されるという日本のバスによる基幹輸送支援の経過が紹介されました。
一方、海外のBRT(バス・ラピッド・トランジット)では、総路線距離170km(おそらく世界一)を持つジャカルタ市(インドネシア)、バス路線沿線に高層住宅を張り付けるなど、バスの運行が都市計画のひとつとなっているクリチバ市(ブラジル)、治安があまり良くないにもかかわらず多くのホワイトカラーがバスを利用しているボゴタ市(コロンビア)といった都市の事例が紹介されました。
「バスによる幹線輸送の『魅力と可能性』については、①速さと②輸送力をどうするか、③駅・ターミナル・停留所をどうつなぐのか、④ネットワークをどう構築するのか、⑤存在感をどう高めるのか、といった5つの論点がある」とし、
それにより、
Walkable-駅や停留所への歩きやすさ(安心できて快適で)
Reliable-市民がその移動サービスを信頼し誇りに思い自慢する
Enjoyable-駅や停留所、車内が楽しい(イベント、市場も)
を実現し、公共交通の意味を体現できるとしています。

【話題提供】①

児玉健氏(神戸市交通局 副局長)

児玉氏は京都バス(株)に20年勤められたことから、京都での取組みを紹介。京都市は交通局(市バス)が約8割をカバーしており、1枚の定期券で異なる事業者のバスを利用可能なシームレス化(均一運賃区間の拡大、2社間のダイヤ調整、同じ行先で異なるのりばの統合、普通・快速運転の役割分担など)に取組んだことから、地下鉄延伸時に厳しい状況となったバス利用者数が徐々に回復してきたといいます。「乗務員など、公共交通を取り巻く資源には限りがありますから、かつての事業者間の競争から協調を経て、シームレス化による利便性向上を行う『共創』状態へとつなげられればと思っています」

【話題提供】②

鈴木文彦氏(交通ジャーナリスト)

冒頭、コロナ渦で危機的状況にある交通事業者を思い、「バスがワクチンの移動接種会場になるなど、地域に必要なインフラであることを強調しておきたい」と力説。赤字路線には以前から補助が入っているものの、補助の入っていない幹線では利用者が減少して維持できなくなり、「幹がなくなって枝葉が残ることにもなりかねない」と危機的状況を訴えられました。
一方、高齢社会化による公共交通へのニーズが高まりと公共交通を取り巻く環境の厳しさが比例し、あらゆる手段を総動員してでも移動を確保する必要があり、そのためには、今ある公共共通の評価を行い、「個別案件にとらわれず全体のネットワークとして議論する必要がある」と言います。
基幹交通を守るための財政負担についての好事例として、路線や系統単位の補助ではなくエリアごとの包括補助を行っている山口市の補助制度が紹介され、貨客混載やマイカーとの共存、楽しく公共交通を利用してもらうために知恵を出し合うことの重要性も唱えられました。

【パネルディスカッション】 幹線としての路線バスにできることはもうないのか?

<登壇者>
中村文彦氏、鈴木文彦氏、児玉健氏、谷田貝哲氏(バスマップ沖縄 主宰)

<コーディネーター>
大井尚司氏(大分大学経済学部門 教授)

大井:進行は考えてきてはいますが、今日は事前の打ち合わせ、予定調和なしで行います。
ここからご登壇の谷田貝さんからお願いします。

谷田貝氏:私はやんばる急行バスに勤めていますが、道路混雑がひどいため、自社の路線バスの遅れが曜日・時間帯等に関係なく約5~45分まで幅広く、ダイヤ調整などの事業者努力では改善できないレベルになっています。また、沖縄管内では道路改良に伴いバス停が廃止されるようなことも行われ、車優先の流れに歯止めがかかっていません。

大井:パネリスト間で聞いてみたいことをどうぞ。

中村:(児玉さんへ)シームレス化を進める上で、ここは気をつけた方がよい点は何でしょうか?

児玉:「京都市の交通は交通局が主役で京都バスは子分になる」と宣言しましたが、それは運賃決裁権を手放すことでもあり、社内をどう説得するか、どういうストーリーを描くかといった、グループ企業を含めた自社内の調整が大変でした。

鈴木:(谷田貝さんへ)バスマップ沖縄のインフォメーションの工夫についてお伺いしたいです。

谷田貝:マップは情報媒体として完璧ではなく、マップを理解するにはある程度リテラシーが必要なため、マップで全ての人をバスに乗れるようにするのは無理です。また、制作していると自分が一番詳しくなってしまうので、初心を忘れないように心がけるとともに、来街者への周知を行っています。

児玉:以前、京都市もバス会社ごとに路線図が分かれていました。京都旅に慣れている人は最初にバス路線図を3枚もらうと紹介しているメディアさえありました。(苦笑)
中村先生から「バスは多様性やしぶとさがある」といった話がありましたが、これは日本ならではのことでしょうか?

中村:ひと言で言うと、海外は客を取り合うかすみ分けるかの両極端です。1995年にイギリスでLRTの計画ができた際、先行して計画区間に急行バスを走らせたといった事例もあります。

児玉:地下鉄烏丸線と平行して走るバス路線は、同線開業後に廃止したくてもなかなか廃止できず、徐々に減便するなどの戦略的廃止を経て、廃止まで20年かかりました。

谷田貝:沖縄のバスも複数事業者が並走しています。

児玉:京都駅~立命館大学間に全く同じルートのバス路線を2社(交通局・西日本JRバス)で運行していますが、当初JRはキャンパスの外にある停留所だったのが、交通局が停留所をオープンにして2社で使えるようにするなど交通局が懐の深さを見せています。また、時刻表も1枚になりました。

(1)「幹線」「ネットワーク」の見直し、なぜ進まないのか -20年前の『バスはよみがえる』の「路線網を見直す努力」は、今も進んでいない気がするのはなぜ?

中村:「バスはよみがえる」(日本評論社 (2000/3/1))を出版した頃より、3者(事業者・自治体・国)の距離は近くなったと思いますが、逆に近すぎてコミュニケーションが進んでいないのかもしれません。

大井:協議会などでは事業者に応諾義務があるので、「何か言われるのではないか」という守りの姿勢に入ってきていることがあるのかもしれません。

中村:やらないより、やっていく。実験で課題が見えるのは良いことで、目標未達=失敗ではありません。具体例を示せば、事業者ものってくるはすです。

大井:制度変更はチャンスですね。

鈴木:ここ10年くらいで変わっていくのではないかと思っています。運行エリアの死守からバスの限界に気付き、全体を考えるようになっていく、今はその過渡期なのではないでしょうか。それは、昭和30~50年代の良き時代を知っている人がそろそろ引退するからです。

児玉:行政がバスに興味を持ち始めてきました。興味を持たざるを得なくなったのかもしれませんが、バス会社は100年企業が多く、路線の改廃などは伝統芸能のように口伝えでやっていることが多く、それがまた見事に外れもしません。(笑)
新しい鉄道や道路が開通した際、ネットワークを再編すべく最寄駅にバスを短絡させたところ大失敗したこともあります。地域の人は、歯科医院、塾など、バスルート上にある施設を利用する文化があるので、短絡によりそれを壊してしまいました。地域の話を丹念に聞くべきで、コロナをチャンスにできるかと思います。

大井:「経験に勝るものなし」と言いつつ、内部に苦言を呈せざるを得ないことは年代的に大変だったのではないでしょうか?

児玉:私がサラリーマンになった頃の上司は今70~80代、運賃決定権の喪失は権益を捨てるのかと全部否定されました。交通事業者は交通費を支給しない代わりに、自社のみ無料で乗れるようにしているところが多く、バスにも乗らず車通勤している職員もいます。これでは交通サービスの状況がわからない。サービスは社会の変化に合わせて変えていかなくてはなりません。

大井:私も交通事業者のグループ企業に在籍していたことがあるので、自社サービス無料の社員証をもらうと、乗り物にお金を払うというハードルが上がるのがよくわかります。

谷田貝:沖縄都市モノレール(ゆいレール)延伸時、新しい駅にバスが入りませんでした。モノレール側から当社に依頼があって「てだこ浦西駅」に乗り入れしましたが、道路混雑がひどいため新しくできた県道を使って同駅にショートカットしようと申請したら、バスを運行できる道路形状ではないと却下されました。
大井:バスだけ見ているとダメで、モノレールも含めたネットワークを考える必要がありますね。鉄道は補助金なし、バスの補助金も減少、そして両者の特性も全く異なります。

中村:私は同モノレール延伸の際の委員でしたが、当時は関係者の権益を守る議論が中心でした。

鈴木:鉄道とバスの関係は、ほぼ無関係に考えられることが多いです。群馬県の館林市と大泉町を結ぶ基幹交通を考える際には、ニーズのあるところを周り切れないといった課題がありましたが、東武鉄道小泉線が走っていたことに気づき、バスと同線を結び付けることで課題をクリアし、車両や乗務員も最小限で済むようになりました。

(2)「幹線」バスの今後の可能性-まちの「インフラ」と位置付けられるようになって、使ってもらえ、活き活きしたものにできるには?

大井:「こういうことをやれたらいいのに」といったことをお願いします。

谷田貝:バスの社会的地位が低いです。沖縄県のバス利用回数は平均で年25~6回とそれほど低くありませんが、毎日乗る人もいるので中央値をとれば相当低いと考えています。バス停でバスを待っていると、「免停になったのかしら?」、「二日酔いかしら?」といった心配とともに車に乗せられて、貴重なお客さんを取られてしまうことがあります。沖縄では、移動=車になっており、バス無しでの社会が成立しています。

児玉:輸送そのものにいきがちなバスをインフラとして認知してもらうことも重要かと思っています。バス停の魅力向上として、ベンチを置き、余力があれば上屋をつけ、照明をつけることで、それぞれバスを利用しなくても、「腰を下ろせる、雨宿りできる、暗くなっても安心できる」といったことから、バス利用者以外にもバス停を知ってもらうことができます。
また、23時台に団地内を走るバスを自由降車にした路線もあります。乗る人はいないので降車だけなのですが、防犯上夜道をなるべく歩かせないために実施しました。バスが頻繁に停まるのではないかなど警察に言われましたが、お客さんは概ね各ブロック内でまとまって降りてくれます。バスは朝使えるが帰りは使えないといった声も多いですが、終電に乗り遅れる人は少ないので、終電にのみ接続するバスを設定することもしています。

鈴木:バスが社会のインフラとまで認識されているとは言い難く、存在感を高める必要があります。それには、愛称をつける、色を統一するなどが考えられますが、1社単独ではなく、地域全体で取組めればより良いと考えています。
そういった点では、新潟市が比較的役割分担ができていると思っています。大規模なことではなくとも、一般車両の直進規制など、予算をかけない交通規制だけでバスの運行をスムーズにすることや、自宅から最寄りのバス停まで車で行きそこからバスに乗り換えてもらうという施策は、高齢者本人よりも家族に喜ばれています。また、待合環境の改善はコンビニのイートインスペース等を待合スペースにするなどの方法もありますので工夫次第かと思います。

中村:1990年頃に交通規制を調査した際、バスレーンについて調べたところ、最短で学校の始業前のみの20分間(東北のある町)、最長で午前5:00~翌午前1:00まで(大阪市の大正通)で、やろうと思えば色々なことが柔軟にできることがわかりました。
一方で、道路交通法第1条の「安全・円滑」の意味をどう捉えるかです。交差点で横断歩道を1か所削って3か所にすることは、歩行者にとっては不便になりますが、これによって車の流れが円滑化されるのであれば法的には問題ありませんし、バスレーンを整備してもバス利用者が増えずに交通の円滑化を妨げていることになれば、バスレーンを廃止するという議論にもなってきますので、利用者が少なくてもバスを優先させるかどうかという判断にかかってきます。
私は、交通規制をやっていたけどやめてしまったというようなカタログを作ってもらいたいことと、この先の道が混んでいる時、カ-ナビに「電車に乗りましょう」という表示まで出せるようになると良いと思っています。
谷田貝さんにぜひお願いしたいのが、沖縄はバスの系統番号が生きていて、いくつかの飲食店の案内にはどの系統で行けばよいかが載っています。それと同じように、歯科医院に行くバスマップ、塾に行くバスマップといったように、目的地にいくためのマップを作ってはどうかと思っています。バスの車内に「バスに乗りましょう」というポスターが掲げられていることがありますが、バスに乗っていない人に向けた情報発信の議論がまだまだ不足しているんだと思います。
バス路線の改廃をする際に行われるバス事業者の伝統芸能は、スマホやICカード等のデータをデータベース化して評価していくことが重要ではないかと思っています。
最近、バスに乗るのが恥ずかしいといった声を聞きました。以前、コンビニ(am/pm)でバスの待合環境の実験を行い、バスが近づくと店内の音楽が変わるといったこともやったのですが流行りませんでした。どうもバスに乗ることはクールではないと思っている人が山ほどいるようなので、それをどう変えていくかという発想が必要だと思っています。それによって、バスがインフラだという認識を持ってもらえるのではないかと考えています。

大井:最後にまとめさせていただきます。

(1)「幹線・ネットワーク」の見直しが進まないのは、不確実なことはできないと思う自社内、課題は見えつつも今は変化の過渡期、各モード間の調整が不調。
(2)「幹線バスの今後の可能性」としては、バスの社会的地位向上、バス停の充実等により輸送手段以外の社会意義も高める、地域を巻き込む仕掛けを作っていくことがあげられるかと思います。
(3)気になるキーワードとしては、事業者がケンカしている間にお客さんが離れていく、誰に乗ってもらいたいのかというユーザー目線が重要であること、バスは、Walkable、Reliable、Enjoyableな街のインフラで、相乗りなどの不便と引き換えにWifiなどの便益が得られるといった考え方もあろうかと思います。マップ等の情報提供をユーザーを巻き込んで作っていくことも、幹線維持につながると思われました。

本日はみなさまありがとうございました。

〔閉会のあいさつ〕

実行委員会顧問 鎌田実氏(東京大学名誉教授)

今回、ハイブリッドではありますが3年ぶりにリアルの場を設けて開催することができました。

各セッションは示唆に富んだ内容でしたが、カーボンニュートラルにかかわる動きが個人的に気にかかっています。2020年から30年かけてカーボンニュートラルを行っていくとしたら、2030年には1/3位まで進んでいかないといけませんがあまり動いていません。
バッテリーを作る際には相当の電気を使いますし、再エネ率の高くない日本で充電してもカーボンニュートラルに直結するわけではないので、自動車のEV化だけでは追いつきません。その中で、来年は公共交通をはじめとするモビリティサービスがどのような役割を果たすかなどについても議論できればと思っています。

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