【参加報告】「移動・外出を多様な生活支援サービスで推進するセミナーin札幌」
「移動・外出を多様な生活支援サービスで推進するセミナーin札幌」(主催:NPO法人全国移動サービスネットワーク)が、11/24(金)に開催され、道内各地はもちろん、青森県など道外から、主に福祉系で活動される方々180名程が参加しました。
■基調講演「総合事業を活用した移動・外出支援のしくみと動向」
(服部真治氏/(一財)医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構)
総合事業が生まれた背景は、「介護予算の削減のためではなく、甘い推計でみても今のままだと支える側が将来大幅に不足するとされることから、福祉の専門職のみならず、流通・運輸業など、様々なサービス主体によって、高齢者を支えていく必要があるから」です。
この総合事業は自治体が直接行うサービスではなく、あくまで“補助事業”となっています。訪問型サービスDにおける2つの類型(①通院や買い物等、②通所目的「サロン送迎型」)があることと、道路運送法における許可(緑ナンバーなど)や登録(自家用有償運送)がいる場合や不要の場合について触れた後、訪問型サービスBやDにおいて、許可、登録、許可登録不要等により分類したサービスを実施している市町村のモデルなどを紹介されました。
また、「助け合いの実施主体は“住民”であって、市町村は住民団体を側面的に支援することであり、住民は市町村の下請けではない」ことも強調されました。事例として、山口県防府市で行っている訪問型サービスD(社会福祉法人やイオン防府店などが参画)を取り上げ、「サービスの仕組みは複雑に見えますが、住民に必要なサービスを構築してから、それに合わせて市の担当者が要綱を作ったことがポイント。先に要綱を作ると良いサービスはできない。」と自治体職員に向けた要綱作成のコツも伝授されました。
■事例紹介
①NPO法人別府安心ネットの取組みと行政の関わり
(松嶋由香里氏/島根県美郷町健康福祉課 課長補佐)
美郷町は、島根県中央部の山間にある人口4,900人、高齢化率45.6%の町です。(町内に2018年春廃止予定のJR三江線の駅が10駅)独居や高齢者の移動手段が限られていることなどから、生活相談などを行いながらできる移動手段の確保が必要でした。
そこで、役場内の関係課が話し合い、訪問型サービスBとDの導入にこぎつけ、地元のNPO法人(後述)に担ってもらうことにしました。今後は、小さな拠点づくりの事業を通じて、地域ぐるみの生活支援体制の構築を目指していくことを考えています。
②住民が安心して暮らし続けられる地域づくりを目指して
(樋ヶ昭義氏/NPO法人別府安心ネット理事長)
地域には、農地が荒れたり、徒歩圏内に公共交通機関がないという課題があり、生活サポートとして農作業支援等や福祉有償運送を開始しました。この春からは、訪問型サービスBで、掃除等の軽作業やや買い物を年会費のみ(都度の料金不要)で実施しています。
移送サービスでは、島根医大病院(約80km)をはじめとする3か所の医療機関への送迎を行っていますが、住民によって担当医が異なり診察日がそれぞれ違うため、ほぼ毎日のように医大まで往復しています。H28年度は210日運行、1日当たり3.1人の方にご利用いただき、「自宅まで送迎してくれるので助かる」といった声を頂戴していますが、収入面で行政からの助成金に頼らない運営や後継者育成が解題となっています。
③地域にニーズに対応する移動手段の確保について~支えあいバス運行の取組みから~
(佐藤智彦氏/池田町社会福祉協議会事務局長)
北海道池田町は道東にある人口約7,000人、高齢化率41.31%の町です。ふまねっと教室などの介護予防事業や高齢者同士の支えあい事業を行っていますが、交通の確保では、フリー乗降制のコミュニティバスやデマンドタクシー(実証運行中)などがあります。
コミバス(一周50分)においては、町内会館を待合サロンとして活用し、このサロンで“くもん脳トレ”をはじめとする介護予防事業等が行われています。乗車実績は、H25年度(454人)→H29年度(708人)と伸びていて、特に厳寒期の利用が多いことが特徴です。一方、乗合タクシーにおいては、乗り合わせた人同士でコミュニティーが生まれるなどの効果がありました。
これに加え、農村部の例会やサロン送迎の手段として、「支えあいバス」というサービスを開始しました。農村部と町の中心部への行き来ではなく、集落内の会館に移動する手段がないというニーズを受け、1年間の実証運行を経て2017年10月から本格運行に至りました。運行回数や上限額が決まっているものの、町から補助を得て実施しています。
■招待講演:高齢者の移動手段の確保に向けた福祉と交通の連携
金子正志氏/国土交通省総合政策局交通計画課 課長
高齢者の移動手段の確保として、公共交通などの既存の移動手段のほか、介護サービスと輸送サービスが連携することも必要不可欠になっています。
移送サービスの実施にハードルが高いことについては、「交通事業者の既得権益を守るためだ」と言われることがありますが、道路運送法では“安全の確保”と“利用者の保護(運賃・料金等)”を守るために許可制度としています。
一方、法改正により自家用有償旅客運送も拡大してきていますが、実施条件となっている協議会等での合意形成を得るには、相手がどうすれば呑めるかということも踏まえ、一方的な主張ではなく、案をよく考える必要があると考えています。
訪問型サービスDについては、要支援者以外の人を送迎対象とする場合でも、介護保険の支援を受けられると厚生労働省からお墨付きを得ていますので、介護保険を利用していない“お元気さん”も一定程度一緒に送迎しても問題ありません。また、道路運送法の許可や登録の要・不要がわからないという声も聞きますが、有償(必要)か無償(不要)かで単純に分けて考えれば良いのです。
新たに移動手段を確保することは大変なことが多く時間もかかります。富山市のように、高齢者を対象とした公共交通料金の大幅割引や京丹後市で運行しているタクシーのようにサービスの多角化など、“既存の公共交通サービスをもっと活用していく”ということも考えてみてはどうでしょうか。
■パネルディスカッション:移動・外出支援をめぐる課題と対策
○コーディネーター:島津淳氏/桜美林大学 教授
○パネリスト:服部真治氏、金子正志氏、松嶋由香里氏、樋ケ昭義氏、佐藤智彦氏
会場からの質疑応答を主体に討論が進められました。
・訪問型サービスDを作ろうとするとうまくいかない。今ある移動手段で柔軟に対応することも考えてみてはどうでしょうか。
・別府安心ネットは全て会員制で、「介護保険からもらっては」と言われることもありますが、会費だけで賄っています。
・訪問型サービスDで輸送できる“お元気さん”の割合は、特に決まっていません。あくまで「民間の事業に対して市町村が補助する」ので、“お元気さん”が8割であってもそのように按分すれば良いのです。
・地域の要望に対して、財源をうまく組み合わせて移送サービスを確保することが最重要です。
全体を通して、ニーズの把握と分野間の連携の重要性を改めて感じた次第です。
福祉分野であろうと、交通分野であろうと、人が移動することについて違いはないはずですから、これからますます異分野の相互理解を深めて、融合していければ良いなと思います。
(松本)