【参加報告】北海道の交通を考える連続セミナー 第一回 「身近な生活と交通」

配布資料の表紙

配布資料の表紙

7月10日「身近な生活と交通」と題した「北海道の交通を考える連続セミナー」の第一回目が北星学園大学50周年記念ホールにて開催されました。(共催:日本福祉のまちづくり学会事業委員会・北海道支部、北星学園大学経済学部、中央大学研究開発機構(公財)交通エコロジー・モビリティ財団
 セミナーは2部構成で、第一部は生活交通の必要性を中心に、第二部は道内各地の生活交通確保に向けた事例発表がなされました。

「第一部 モビリティの必要性と北海道の生活交通」
①「なぜ、生活交通が必要なのか?」 中央大学研究開発機構教授 秋山哲男氏
 交通計画を立てるには、ユーザーの視点からハードとソフトの側面から考える必要がありますが、日本の場合はそうなっていないのが実態です。

【バス】
道内のバス利用者は右肩下がりが続いてききたのと反対に自動車保有台数は右肩上がりです。バスには本来、「フレイル」(※1)を止める効果がありますが、その役割を果たせているのでしょうか。この役割はマイカーにはありません。バスの輸送人員は減少していますが、赤字・黒字だけの議論で良いとは思っていません。関東近郊などの鉄道会社でさえ、鉄道は赤字で不動産業の黒字で維持しているのが実態というところもあります。また、バスへの国庫補助は大都市部の人口を除いて考えると1人当たり年間約300円負担している計算になります。

講演の様子

講演される秋山氏

【鉄道】
 現在のJR北海道の輸送密度を見ていくと、国鉄時代にバス転換の対象となる4,000人/km/日未満の線区が多くなっていて、分割民営化時と比べると輸送密度が大きく下がった線区もあります。この4,000人/km/日という基準は、バス輸送によるコストとほぼ拮抗する値となっています。
 鉄道の存廃については、国鉄が地域分割で良いのかという議論や民営化時に多様なステークホルダーに説明してこなかったツケが回ってきたものと思っていますが、交通計画の視点からすれば、「鉄道の廃止=地域の負け」ではなく、客観的データに基づいて最適な公共交通をつくっていくことが求められています。

【人口減少と高齢化】
 地方創生と言われていますが、移動ができなければ何もできないわけで、公共交通の重要な役割に気づいていません。また、自動車に依存しないと生活が成り立たないという負の連鎖を断ち切る必要があります。SDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)の17の国際目標には「高齢化・少子化」がなく、日本独自の問題となっています。
 高齢者の自立度の変化をみていくと、男性で19.0%、女性で12.1%が要介護認定を受けるようになるとされていますが、公共交通で外に出ることや都市空間で何かをすることによってフレイルを防ぐことができ、自立度が向上すると考えています。

【高齢者のモビリティ確保】
日本はフレイルを遅らせるための交通が脆弱ですが、海外の事例として2つご紹介します。
ひとつめはサンフランシスコ市営交通ですが、ここでは一般公共交通(バス・路面電車など)と個別交通サービス(タクシー、STサービス(※2))に大別されます。後者は前者の運賃の2倍を超えないようになっています。また、同市は東京都世田谷区と似た人口規模ですが、個別交通サービスの供給トリップ数は、世田谷区よりも約20倍多くなっています。
ふつめはロンドンですが、スマホ案内「ジャーニープラン」により、ロンドン交通局の乗換案内が検索可能で、「最速の公共交通の移動」(主にtube(地下鉄))と「バリアフリールート」(主にバス)による結果が出力されるようになっています。

【北海道の交通の課題】
 課題としては、国鉄民営化時の地域交通を議論してこなかった「鉄道問題の先送り」、コミバスなどの導入に終始し、本格的なモビリティの確保をないがしろにしてきた「自治体の責任で計画・運営するバスが遅すぎた」こと、「障害者・高齢者のモビリティ確保が貧しい」ことがあげられます。
 道内ではコンパクトシティである旭川市が、バスサービスのレベルをエリア分けすることで、バスへの補助金が他と比べて少額となっています。
 日本の交通計画で欠けているものは、情報技術を活用することなどで、乗降者数計測などの客観情報の収集や情報のみえる化、計画スパンの短縮(1年程度で変更していく!)が必要です。

(※1)フレイル=健常な状態と要介護状態の中間の状態。生活習慣などの改善によって身体機能等の回復が見込まれる状態
(※2)STサービス=Special Transport(スペシャル・トランスポート)サービスの略。

②「北海道の生活交通の実態」  北海道運輸局 高橋秋彦氏
 北海道の人口は全国第8位ですが人口密度は最下位で、市町村数は長野県(77市町村)の約2.5倍もあります。また、根釧地区では、福井県と同じくらいの高い自動車保有率となっています。
 高齢者の移動手段の確保としては、2017年に「高齢者の移動手段の確保に関する検討会」が設置され中間とりまとめでは、「公共交通機関の活用」、「貨客混載等の促進」、「自家用有償運送の活用」、「許可・登録を要しない輸送の明確化」、「福祉行政との連携、地域における取組に対する支援」が記されています。
 一方、まちづくり関連分野と連携し面的な交通ネットワーク形成を促す「地域公共交通網形成計画」は、道内で19自治体が作成済み(今年度以降14自治体が作成予定)で、事業者の選定などより具体的な計画を定める「地域公共交通再編実施計画」の認定を受けたのは千歳市と岩見沢市の2自治体となっています。
 道運輸局の取組としては、釧路市において高齢者のモビリティ・マネジメントに取組み、路線バス利用の意識を向上させることができましたが、家族に送迎を頼みづらいという人が約4割いることもわかりました。また、道内各地で宅配事業者と路線バスによる貨客混載も進めているところです。

〔質疑応答〕
(質問)道内で網形成計画を策定した19自治体のうち、再編実施計画が認定されたのは2市しかないので、網形成計画は絵に描いた餅になりませんか?
(回答)実施計画の認定のハードルが高かったことは確かですが、網形成計画を作るなら再編実施計画を作っていただく流れにしていきたいと考えています。

(質問)日本においてMaarS(Mobility-as-a-Serviceの略:複数の公共交通が一体となって自動車保有に勝る利便性を提供すること)の実現する可能性はあるのでしょうか?
(回答)それぞれの部品が完成していないと難しいです。ロンドンではオリンピックの時に、各交通事業を一元化に近い状態にすることができましたが、日本の交通事業者は民営化しているので、調整だけで半世紀くらいかかるのではないでしょうか。

(質問)自動車分担率を○○年までに●●%にするなど、長期の視点に立った計画もあるかと思いますが、これからの交通計画はどのようなものになっていくのでしょうか?
(回答)自動車を減らさない限り展望がないというのは世界的に明らかなので、日本でやるかやらないかというだけの話だと思います。集住することで分担率を下げようとしている好事例はドイツのフライブルグ市にありますが、同市ではLRT沿線の人口密度を上げるために5階建ての住宅を建てて、LRTを15分に1本の運行を確保しています。そういうことがきちっとやれるかどうかが日本社会の転換点になると思います。
また、データを活用して短期に計画を立てるという点については、今の多くの計画は適切なものではないと思っていますので、データに基づいてきちっと計画を立てるべきということです。
交通事業者はデータをなかなか出さないということも言われますが、データがないと計画はできないので、ビッグデータなどを使ってでもデータを活用していく必要があります。

(質問)(釧路市内での調査結果を踏まえ)道民はもっとはっきり頼める気質かと思っていましたが、家族送迎を頼みづらいというのはどういう理由でしょうか?
(回答)「家族であっても気をつかう」という理由が多かったです。

 

第二部 北海道のモビリティと公共交通の事例 コーディネーター 秋山哲男教授
①「中頓別のライドシェアの実験」 切通堅太郎氏(HIT北海道総合研究調査会

配布資料の一部

小学生による作文(配布資料より)

 北海道の人口減少は日本全体よりも10年早いスピードで進んでいますが、交通政策は「調整戦略」(守りの戦略)と「積極戦略」(攻めの戦略)の双方に有効な政策と考えています。
 前者は、地域社会に即したまちづくりを推進するために、公共交通ネットワークの維持や自動運転技術の普及などで、後者は、新幹線を活かした道外からの誘客や観光インバウンド政策などがあげられます。
 道北の中頓別町(人口約1,800人)では、町内を経て広域的に運行する旧天北線廃止代替路線バス(天北宗谷岬線)の先行きが不透明なことや、町民の移動に関する将来の不安感などから、平成28年度からライドシェア(相乗り)の実証実験を行いました。
 この実証実験では、シェアリング研究協議会を発足するとともに、交通グループ会議を毎月開催しています。ウーバーアプリを用い、ボランティア・ドライバー16名によりライドシェアを無料でスタートしましたが、無料は気兼ねして利用しづらいという点から、昨年4月以降、実費負担をいただいています。ライドシェアが始まると、従来よりも移動の総量が増え、タクシー会社も忙しくなっています。ライドシェアの9割は町内移動ですが、1割は隣接町村への移動にも利用されています。
課題としては、ドライバーがボランティアであるがゆえに、需要と供給のギャップが埋められないことや、アプリが都市型のため事前予約に対応できないこと、持続的な運営形態の構築です。しかし、これらを中頓別町単体で考えるのは無理があるとも思っています。

(関連ページ)
なかとんべつライドシェア(相乗り)事業実証実験

②「ニセコの交通」 竹内龍介氏 国土交通政策研究
 少量規模の交通は、特定時間帯や季節変動への対応に課題があります。ニセコ周辺は年間100万人以上の観光客が来る観光地ですが、やはり夏期と冬期、住民と観光客では交通ニーズが異なります。
 夏期においては、需要側の住民や観光客がデマンドバスやタクシー予約が取りづらいことや他都市に行きづらい点などをあげ、供給側である交通事業者は、タクシーにおいてはドライバーを季節雇用しているため通年の安定的な雇用ができない点や、デマンドバスにおいては、予約を1割弱断っているという現状があります。
 一方、冬期における外国人への調査では、満足度が雪質などでは高いものの、アクセス性では低くなっています。また、乗り場やダイヤなどで不満が多くなっています。住民においては、公共交通はほとんど利用されていないものの、本人よりも同居家族の方が将来の外出を不安視していることをうかがい知ることができました。
 今後は、季節特性に応じた対応などを行うために、現状の公共交通システムでは対応できない領域をタクシードライバーと住民ドライバーの双方によるサービス提供の構築を考えています。

(関連ページ)
ニセコにこっとBUS(デマンドバス)

③「北海道における生活交通実態-栗山町における事例-」 北星学園大学経済学部教授 鈴木克典氏
栗山町(人口約1.2万人)で、市街地を循環しているコミュニティバス(くるりん号:1周所要53分、平日のみ運行)は、2015年から試験運行(無料)を行い、2016年から本格運行(有料)に至っています。
運賃は、1回おとな200円(小学生:半額、未就学児・70歳以上:無料)で、郊外を運行する町営バスと共通の回数券と定期券があります。本格運行1年目は、平均73人/日が乗車し、9.1人/便でした。70歳以上の利用が8割近くを占め、利用目的は、通院、買い物、その他(大半は温泉施設)の順に多くなっています。また、バス停まで5分以内でたどり着ける人が約8割を占めています。

(関連ページ)
コミュニティバスの運行について

質疑応答の様子

質疑応答の様子

〔質疑応答〕
(秋山)ライドシェアの普及に関しては、中国では法整備を行い、アメリカでは、タクシー業者が激減したことを踏まえ、タクシー業者がウーバーによるライドシェアもできる制度を導入している都市もあります。料金授受などの点から、運転手もウーバーの方が働きやすいという声があります。一方、日本では法的な整備はできていませんが、日常使われていない車が約6,100万台あり、タクシーが約5,700万台ですので、前者の活用でタクシーを減らすことができます。

(秋山氏から3人へ)
①日本でライドシェアは定着するのでしょうか?
(切通)ウーバーは既得権益の抵抗にあって日本では進んでいませんが、新たな展開を模索するウーバーが、生活交通の確保を課題と考えている中頓別町に目をつけました。現在、中頓別町には、多数のタクシー業者が視察に訪れています。また、一過性のブームに終えないようにしたいと考えています。

②ニセコ町の季節需要の変動への対応策とデマンド交通の適正計画が良くないのではないでしょうか?
(竹内)需要変動への対応については、季節のほかに、住民と観光客によって需要の種類が違いすぎるという問題がありますが、供給する側がフレキシブルに対応できるかを検討する必要があると思っています。(例:バスドライバーの場合、季節によって北海道と沖縄の2地域で就労してもらう。タクシーに加え、過疎地有償運送などを組み入れるなど)
デマンド交通の計画は、1台でどれだけやりくりできるかにかかっていて、コミュニティバスとデマンドバスとでは計画が異なります。

③コミバスへの税金の投じ方
(鈴木)栗山町のコミバスは、(運賃)収入が約150万円/年で、支出は約1,000万円(委託費約650万円、車両リース代約350万円)となっていて、運賃収入の約6倍のコストがかかっています。しかし、コミバスには、利用者が「買い物を楽しむ」、「店を回る」、「人に会えて楽しい」、「歩く」などの効果もあります。

(フロアから)
(質問)中頓別町内にはストック車両が何台あるかを告知するという方法もあるかと思います。
(回答)町内の自動車所有率、免許保有率などは調査していますが、事業推進に関してストック車両数を町民へのアプローチには使っていませんでした。良いアイデアだと思います。

(意見)ニセコの需要変動の件ですが、繁忙期で就業地を変えるのは従業員の負担も大きいので、夏は別な仕事をすることも考えられるのではないかと思います。

(質問)スマホアプリは、何歳くらい位までの人が使えていますか?
(回答)75歳くらいまで使えっていますが、ウーバーは40~50代が中心で、60代は人によると思います。
(質問)栗山町の定期券は他と比べて高いのではないでしょうか?
    若干高いとは思っています。郊外の町営バスも使えるので仕方ないかと思っていますが、今後値下げも考える必要があるかもしれません。

(秋山氏)今までの計画は“トップダウン型”で、これからもまだ続くと思う一方で、人の価値感や技術は多様化してきており、これからはボトムアップ型の計画が出てくると思っています。
また、ウーバーの収入も自動車メーカーに置換えれば世界で5番目の収入を得ており、交通計画は徐々に転換されていくものと思っています。

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