【参加報告】「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2019」② 2日目その1

ショートスピーチ

瓦林 康人(国土交通省大臣官房 公共交通・物流政策審議官)
地域公共交通網形成計画の「地域」とは、「大都市を除く全て」です。バスの利用率は低い分、1%の利用増で増収できる「伸びしろ」がありますが、バスの利用者は地方では人口減少より早く減少し、大都市では増加傾向にあります。
公共交通を取り巻く環境には、全国的なバス運転手の不足、コミバスにおいては収支比率の低さから財政的に持続できるかという問題、地方自治体の約8割で公共交通専任担当者が不在となっているなど、様々な問題があります。
現在、地域公共交通活性化再生法の見直しにより、自家用有償運送の円滑化による観光客や広域での輸送を進めていくことや、地域公共交通網形成計画を原則的に全市町村で策定化する方向で検討しています。

瓦林氏

コミュニティバスの現状…

くらしの足 基調討議-おでかけを豊かにする「のりしろづくり」のススメ-

登壇者:高橋 正貴氏(北上市 都市整備部 都市計画課 課長補佐)
鈴木 立彦氏(長電バス株式会社 乗合バス部長)
中根 裕氏(全国移動ネット理事長)
コーディネーター:吉田 樹(福島大学准教授)

おでかけを豊かにする「のりしろづくり」のススメ 吉田 樹氏

「殻」を破るためには「のりしろ」が必要です。
南相馬市民へのアンケートでは、車をやめると外出自体が億劫になったという声が多くありましたが、車を利用している人も行きたい場所が減っており、魅力的な外出場所を増やすことで市民の交流を促す必要があります。今は、お出かけしなくてもモノが届く時代ですが、これは地域経済にとって良くありません。
さて、モビリティのツールは「ビジネス」なのでしょうか? 「インフラ」なのでしょうか? 利益計上可能な交通は「ビジネス」ですが、生活に不可欠な不採算路線等は「インフラ」であり、双方の対話による「協調」・「共創」が必要です。
教科書的に運賃引き下げや増便を行うことで利用者が増える路線がある一方で、毎時1往復以下の路線などは運賃を下げても利用者が増えないといった、取組の効果が上がらない領域が存在します。この課題の解決は「のりしろ」づくりが鍵になります。つまり、それぞれが持つ“暗黙の守備範囲”を拡大することで、守備範囲を少しずつ重なり合わせるということです。
交通空白地を鳥観図でのみ捉えるというのは限界だと思います。
栃木県那須町では、デマンド交通を誰でも使えるサービスとした上で、隣の塩原町の病院に行けるように乗り入れし、埼玉県飯能市の交通空白地有償運送では、往路は自家用有償運送、復路はタクシーといった利用が可能です。そもそも、「交通空白地」ではなく「交通空白時間」と言う方が良いと思いますが、おでかけ産業はそれぞれの得意領域を出し合うことで輸送効率があがるのではないかと思っています。

吉田氏

ビジネスとインフラの対話領域

のりしろをつくると…

高橋 正貴氏

岩手県北上市は人口9.2万人の街です。「あじさい都市」と銘打って、16地域それぞれに拠点を配置し、都市拠点を2地域に設けた多極集中連携都市にすることで、各拠点でずっと暮らせることを狙っています。公共交通はネットワークの充実を目指し、幹線・拠点間・地域内の交通に分けて構築しています。
拠点間交通では、運行交番に合わせ、不規則に運行していた路線のダイヤを30分間隔にしたところ、利用者が年間1.7万人から2.2万人に増えました。
地域内交通では、地区の人が交通手段を選択できるようにしていますが、協約を結ぶ形を選んだ地域では、利用者が減るとバッサリ切られるということで、協定より厳しくなっています。
また、平成22年から運行しているNPO法人くちないによる過疎地有償運送は岩手県第1号ですが、2週間の実験を経てこの地域には必要と判断しました。当初、タクシー会社は拒否反応を示しましたがねばり強く交渉して実現し、現在も利用者が増えています。この有償運送は、「店っこくちない」という「結節点」で路線バスに接続しています。
さらに、黒岩地区ではバス停まで来れない高齢者のために「互助の輸送」を行っています。トヨタカローラがシエスタを貸出しし、「わくわく夢工房」という「結節点」で「おに丸号」(月・木運行)に接続します。
運転手は意外と若い人が多いのですが、両地区とも運転手などをコーディネートするキーマンがいて、キーマンが高齢なことが課題です。

高橋氏

あじさい都市のイメージ図

結節点は人気スポット

地方バス事業者の独り言 鈴木 立彦氏

長電バスは、台風19号の翌々日に運行を再開しました。長野市内で浸水した映像が流れておりますが一部の地域ですので、長野市にも足を運んでください。
運転手不足は全国のバス事業者の97%にまで占めています。バス事業者自体が高齢化しており、運転手不足の実態としては仕業を減らしたり、路線を廃止したりしています。
そのような中、夏のアルピコ交通と冬の長電バスでは、受け持つ路線の繁忙時期が真逆に異なるので、お互いに2路線ずつ融通し合って、業務量を平準化させるように工夫しています。また、貨客混載をヤマト運輸と行っていますが、人の移動したい時間帯と荷物運送時間のマッチングが難しい状態です。
さて、公共交通は誰が維持するのでしょうか。「運賃に加えて補助金をもらっているんだからいいじゃないか」と言われることもありますが、予備車両や回送費用は事業者負担とするところもあると聞きます。そして、補助金は企業に対しての補助ではなく、系統毎に支払われるものですし、1年半後に確定します。車両購入の補助も一括で支払われるのではなく、6年かけて分割して入ってきますので、ある程度の内部留保がないとバス事業はできません。従って、利益がなければ路線を維持することができませんし、余裕があってこそ「のびしろ」を創ることができます。

鈴木氏

確かにそうだと思った次第

中根 裕氏

私たち全国移動ネットはNPOの業界団体ではありません。異セクターとネットワークを作り、地域に寄り添うことを目的にしています。全国各地のトッププレイヤーがたくさん集まり、全国の声雄をとりまとめて国への提言を行っています。
我々は移動を基本的人権のひとつであると捉えていて、誰もが移動できる社会の構築を目指していますが、それはSDGsにある「誰一人取り残さない」と全く同じ考えです。移動の問題は交通だけで解決しませんし、それぞれのセクターが活動範囲を決めると領域ができてしまいます。
あるショッピングモールの送迎バスに車いすの方が乗車した際、乗れずに並んでいた人に運転手が「車いすの方が乗ったので、これ以上乗れません」と言ったそうです。どう思います?
バリアフリー対応の車両を入れても「魂」が入っていないからこういう対応になるんです。これからは「人」の部分が重要になってくるのではないでしょうか。

中根氏

パネルディスカッション

吉田:持続性についてお伺いします。
高橋:持続させるためには、役所が金を使って公共交通の利用者を増やし、そこそこ乗るようにすることを目指します。
吉田:持続性については、路線についてなのか、暮らしについてなのか、考えがバラバラなことがあります。長電さんのお話ではキャッシュフロ-を重視するということでしたが、強調するところがあればお伺いします。
鈴木:持続するものは、必要であれば続くと思っています。都市部の公共交通は誰かが使うので維持されますが、地方部は特定の個別利用も多く、公共交通と呼べないような状態で財源を投入することが続くのか疑問を持っています。

吉田:移動手段がないから出かけられないといったこともあれば、暮らしを持続可能にするために路線を維持する必要もあります。
自家用有償運送や登録不要の輸送にすると、持続するのかと問われることがあるかと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
中根:自家用有償運送は使命感で始めた団体が多く、第2世代がいないので、担い手が増える保証はありません。白タク行為との誤解や事故など、移動サポートを行う壁は多いですし、我々が大きい壁と思っているのは運営協議会での合意です。移動サポートは全国どこでも必要なのではないでしょうか。
吉田:企業としては「のりしろ」は内部留保がないとできないとのことでした。鈴木さんご自身は複数社にいらっしゃったのですが、事業者の関係が変わったきっかけは何でしょうか。
鈴木:時代が変わったことだと思います。私は松本電鉄からアルピコ交通に出向し、そして長電バスに移りました。今は共同しないと公共交通がつぶれるという共通認識を持っています。
吉田:得意な分野で融通し合うことで効率を高めることができるということかと思います。
ラストマイルなどの小ニーズ・ニッチを埋めていくためには、運営協議会で「のりしろ」を出し合う必要があるかと思います。多種多様な移動手段を持つ北上市では、合意形成の工夫は何かあるのでしょうか?
高橋:協議会前の協議です。検討段階から事業者と共に‟タメ口“をきけ、本音で情報開示ができるという信頼関係です。
吉田:協議会の時間内のみでは無理なので、日々対話できる仲はMaaSをつくる上でも重要ですね。
長電さんの車両避難においては、何か事前に計画があったのでしょうか?
鈴木:事前計画はありません。バス事業者のDNAでバスを水没させないという意識が働きました。
運輸支局への避難は、緊急の連絡先を知っていたということもあってスムーズにできました。
吉田:日々つながりがあるとスムーズに動けるということがわかりました。
「のりしろ」をつくる上では、ライバルと手を携えることで実は効率が上がるということもあれば、公共交通会議などの役割ともいえますが、こういったことを日々話し合える環境づくりがとても重要だと再認識しました。

グラフィック レコーディング。イラストがめんこい。

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