2018年10月18日(木) 「「ひと」と「まち」を結ぶ持続可能な公共交通を目指して~地域の足づくり~」(主催:国土交通省北海道運輸局、(公財)交通エコロジー・モビリティ財団)と題して、「第19回地域バス交通活性化セミナー」がホテルオークラ札幌で開催されました。

【基調講演】 加藤博和氏(名古屋大学大学院環境学研究科 教授)

基調講演の様子

基調講演の様子

国破れて 山河破れて バス走る

以前、帯広から新千歳空港までバスを6本乗り継いで移動したことがありますが、乗り慣れた私であってもHPなどで調べても乗り継げるかどうかがわからない部分がありましたので、そういった部分を改善していく必要があります。
 東日本大震災後に被災地を訪ねたところ、国家権力も力及ばず山も川も壊れ跡形もなくなった場所をバスが走っている様子を見て、「国破れて 山河破れて バス走る」と思いました。何とかバスを動かそうとする姿はすごいと思います。

 事例として石巻市の稲井地域乗合タクシー「いない号」は路線バスの廃止代替交通ですが、地域住民が主体となり、協賛金等を軸にしてタクシー会社に委託して運行しています。地域の人々がお出かけしたい場所に行けるようにしていますが、月1回検討会を開き、運営の見直しを行うなど「身の丈に合ったお出かけを実現」しています。
 震災で車も流され、さらに地域の足として必要不可欠なものとなりましたが、こういった運営をやろうとすると本当に手間がかかります。ですが、こういうことこそ市役所・事業者・地域住民が人・金・負担をお互いに分かち合い“一所懸命”になって取組むことが重要です。
 いない号の場合は関係者が対等な関係ですが、既存の交通はそうではないです。最初はケンカになって、徐々に信頼関係を構築していきます。本来、コミュニティバスも地域コミュニティがバスを支えるべきではないかと思っています。
東日本大震災後、バスの車両は電気(発電)・暖房・無線を使ったり、避難輸送やクルマを流失した人の足、鉄道代替、空港連絡にも利用されましたが、バスがある地域とない地域で差が出ました。
 今回起きた胆振東部地震でも、あつまバスは震源地に所在し従業員も被災されているのに、2日後に運行を再開し、十勝バスではバスを携帯電話の充電場所に開放していました。
 しかし、東日本大震災からしばらくしてどうなったかというと、東北では車に戻り、東京は自転車が増えました。

静かな津波

 今、静かな津波が起きています。
 高齢者が増えるので、バスの利用が増えると言われていますが、乗務員の年齢は元々高いので、需要の高まりよりも先に乗務員不足が起こります。今のままだと、日本のお出かけは穴だらけになります。
10 年位前は、交通空白の解消を地域の担い手でやり始めたことがありましたが、担い手自体が高齢化したためにできなくなってきています。ライドシェア等もこの先10年では無理で、20年位はかかるとみています。
 そもそも、不採算だったり担い手不足なのに、「無理してバスを走らせる必要があるのか」と問われることがあります。バスを利用することを前提とせず、単にバスが「あったらいい」ではダメです。公共交通は環境にいいと言われますが、乗り合わなければ環境に優しくありませんし、交通弱者のためにも必要だと言われますが、利用するためにはバス停や駅まで行かなくてはならず、本当の弱者は救えません。そういった点では、バスは“ザルの福祉”です。

 どうやったら公共交通にお金を払ってもらえるかを考え、ありがたいと思ってもらえる公共交通を作る体制が必要です。私には3年間苦しんだ現場があります。岐阜県の美濃地方にある白川町と東白川村で、飛騨地方にある白川郷とは異なる地域です。ここは、最寄りのJR白川口駅にディーゼルカーが2時間に1本位走っているところで、列車の到着に合わせて4か所の谷筋集落に向かって4台のバスが運行し、列車の発車に合わせて集落から折り返し運行していてそれなりに便利でした。ところが、運転手定員8名のところ3.5人しかおらず、応援要員も距離が遠くて大変だったため、土日の運行をやめたり朝の2つの便の運行を取り止めました。朝の便がなくなるということは、通学ができなくなるのですが、町長宛てに高校生の投書が来ました。「町長、高校生はこの村に住んじゃいけんの?」と。

 基本的には公共交通がないと町は衰退します。高校生を持つ家庭を中心に住民が流出していきます。移住を考えている家族は子どもと合える時間を増やしたいと思っているので、自宅から高校に通えない町に来ません。お年寄りも弱者ですが、子どもはもっと弱者です。こういった自由に移動できない町は、消滅決定都市と言っても過言ではありません。なので、車がなくてもお出かけできるよう3K(高校生・高齢者・観光客)をサポートしていかなくてはいけません。

乗って楽しい・降りて楽しい乗合交通

 「お出かけできなくてもすむ」ことと「お出かけできない」は全く違います。お出かけできる環境を整備し、いざという時に普段車を使っている人も使えるものにする必要があります。よく田舎では病院に行くという高齢者が多く、「友だちも病院に来ていて、話ができるから楽しい」と言われますが、本来病院は楽しいところではないはずです。“乗って楽しい”・“降りて楽しい”という乗り物や場所を地域で作り、行きたいところを増やす必要があります。

 乗合とは同一行動です。公共交通のないところで魅力のあるところはありません。公共交通のないようなところでは自然がいっぱいなどと言われますが、歩いてみるとゴミがいっぱい落ちていたりします。車で移動していて歩かず、地域に関心がないからそういうことが言えるのです。また、「自分は今はバスに乗らないけど、将来乗るかもしれないから先生残して」と虫のいいことを言う人もいます。

 車はナビなどがあってもはや半自動です。バスは乗継、運賃、停留所等を調べる必要があって、頭も体も使うので、こっちの方がよっぽど元気でないといけません。車に乗れなくなったら終わりといっている人がいるような地域は、地域が先に終わります。
 そうならないようにするためには公共交通が重要ですが、免許所有者の数は高齢者、非高齢者で3倍の差があります。車が利用できなくなると公共交通にも乗れない、その前に公共交通に乗る練習が必要です。これからの7~80代はみんな免許を持っていますから、黙っていたら引きこもりになります。

 運転できなくても暮らしていける社会が求められますが、路線を引いたくらいではダメです。人口減少、インフラの老朽化、高齢化の進展があり、少ない資金投入で最大の効果が出せるようにしないといけません。好き勝手に移動して暮らしたい人は勝手にやってください。国はそういう人まで面倒を見れません。
「持続可能なまちづくり」は欧州では政策として市民の支援を得られますが、日本はなかなかそうなりません。しかし、使いやすく乗り合うことは今後の日本にとって重要で、それを進める人々はもっと重要です。

見えてくるもの…

 兵庫県豊岡市では、2年半の試行期間を経て200円上限バスを運行しています。この地域を走る全但バスが、2007年に9割の路線を辞めたいと申し出ましたが、結果的に3割の廃止にとどめることができました。
神鍋高原線は、市が補助路線として残しましたが、朝7時台の便を廃止にしたので高校生が使えなくなりました。今は、7時台にきめ細かく走る高齢者向けの“ぼちぼち便”と直行性のある通学便の2本になり、車両はfree-wifiでコンセントもついています。(現在のダイヤでは、ぼちぼち便は8時台となっています)これらの取組みにより、市も補助金を若干減らすことができ、上限200円運賃を3年反復更新で継続しています。
 市役所・住民が頑張って必要とされるバスになったことで、バス会社の心に点火されました。同じ赤字でも乗る人のいない意味のない路線ではなく、地域の人が喜んでくるなら収支が同じでも必要です。バス会社は成功体験が少ないですが、近年、心に点火された事業者は増加しています。私は打率3割で十分だと思っていて、失敗を恐れず素振りはいつもやっていてほしいと思っています。
 市長が市民に「バスに乗って下さい」と言うと、市民から「お前ら乗っているのか?」と言われ、市長がいざ使おうとすると使える便がなく、自分だけが使えるようにして乗ると大きい市長車になってしまうので、側近の者たちと乗るようになりました。自分たちが乗るといろいろなものが見えてきて、そもそもすべて全但バスで良いのか、バスの役割分担を行い、全但バスのほか、イナカー、コバス、チクタクというバスに変えていきました。各バスについてはコチラ

 網形成計画は、協議会が一所懸命となって作るものですが、現在、北海道は21件/179市町村で全国の半分で非常に少ない。計画は話し合って作った結果ですが、中にはコンサル丸投げなどのひどい計画もあります。

 〔地域公共交通確保維持改善 5つの鉄則〕(テストに出るそうです)
 ①目的の明確化/②敵材適所/③一所懸命/④組織化/⑤カイゼン

本日の資料は、http://orient.genv.nagoya-u.ac.jp/sapporo1810.pdf で、近日公開予定だそうです。

【パネルディスカッション】「ひと」と「まち」を結ぶ持続可能な公共交通の実現を目指して~地域の足づくり~

パネルディスカッションの様子

◆パネリスト:棚橋 一直氏(紋別市地域公共交通活性化協議会会長・紋別市副市長)
         神  良雄氏(北紋バス株式会社代表取締役)
       加藤 博和氏(名古屋大学大学院環境学研究科 教授)
◆コーディネーター:髙橋 清氏(北見工業大学工学部 教授)

高橋:網計画の地域格差が出てきましたが、地域の生き残りのために計画を策定する必要があります。計画を作るのにあたって、 金がない・人がいない・モノがないのでできないというところがありますが、やってみると見えてくるはずです。

棚橋:平成21~22年度に市内循環線「KURURI」実証実験を行い、アンケート調査等を踏まえて、放射状の市内4路線を循環路線に再編し平成23年に本格運行を始めました。利用者は平成27年まで減り続けていましたが、平成28・29年は増加に転じています。
商店街や観光施設と連携し、バスに乗って中心部に来ていただくキャンペーンを実施したり、上渚滑地区にあるセコマ(元A-coop)の隣接スペースをバス待合所として活用しています。また、ICカード導入の検討を行っていきますが、WAONが地域所有率No.1となっています。
☆紋別市地域公共交通網形成計画(平成30年3月)はコチラです。

高橋:網計画のポイントは、①本気度を示す(路線を放射状から循環型にした)②ニーズ把握(アンケートやインタビュー)③参加型(KURURIのネーミングは高校生が付けた)で、網計画は自前で策定しています。

神:小学校でバスの乗り方教室を初実施し、7年前から「乗って乗ってキャンペーン」を実施し、期間中は47%オトクになる乗り放題のパスを発行しています。名寄線代替バス(名寄~遠軽間)の1日運賃無料の日では、立席が出るほどの盛況です。
また、ラッピングバスは、地元オホーツクの海を描いた車両と山を描いた車両を運行しています。

加藤:大きく状況が変わってきている中で、路線をそのままにしていて良いのでしょうか。
   利用者の増加原因は調べないことが多いのですが、平成28・29年の利用者増加の理由は何でしょうか。
北・南循環線は、高校生などの利用を自宅・学校・その他の三角移動か、自宅と学校だけの往復の移動ととらえての路線なのかは、この計画からは見えてきません。「10年計画」で、途中で変化しないというということはないはずです。
路線カルテを作って議論することが必要だと思いますし、利用促進策によってどれだけ利用者が増えたのかについては、計画検証が必要です。

 神:イベントでは、バス離れに歯止めをかけたいと思って実施しています。バスを知ってもらう、子どもたちに触れてもらう。実態は親が送迎しています。

加藤:乗って楽しいと思えるかどうか。循環なら乗りっぱなしでも良いが、子どもたちの行きたいところに行けるか、ダイヤが合っているかどうかを把握する必要があります。昔は走らせれば誰かが乗ってくれましたが、今はターゲットを絞る必要があります。
例として、ある町でイオンを拠点とするバスをおとな100円・こども50円にしたところ、こどもがひとりで50円玉を持って乗るようになってきました。車内はバス運転手が見守り、イオンでは店員が見守ってくれるので安心です。そして、バスに乗る意識・動機付けにより、子どものうちからバスに乗る習慣がつきます。子どもが乗るためには、子どもと話をする必要があります。公共交通の利用は派生需要なので、ライフスタイルへの提言が必要です。

棚橋:広域紋別病院の移転後、病院の受付時間に間に合うようにダイヤを見直したり、高校生対策として高校への直行便も設定しました。計画も生き物だと思っていますが、効果測定は行っていませんでした。

加藤:計画の最後に、“平成34年の中間評価”とありますが、四半期おきくらいの評価が必要です。
   路線カルテを作ると、路線・地域の実情がわかります。このままいくとこの計画は平成34年に行き詰りかねず、コンサル丸投げになるかもしれない。また、効果測定は利用者へのアンケート・ヒアリングが良いと思います。

棚橋:計画策定にあたっては、適材適所に人を配置し、やる気があれば何とかできると思っていました。また、私の好きな仕事なので任せっぱなしにしなかったことと、外部の人の手助けがあり、キーマンがいたことが大きかったです。

高橋:メンバーの信頼関係が大事で、その中に各組織の中でリーダーシップを取れる方がいると良いです。

〔質問〕
自称バスマニアさん:バスの必要性を話すと説明に「説得力がない」と言われますがどうしたらいいでしょうか。

加藤:乗ること自体が楽しければ良いですが、降りて、人と話して、食べたり、地域を好きになってもらい、地域は来訪者から何かを得られるようなところにバスが関与していれば、存在意義があります。この路線を使って何ができるかなどのワークショップを行うことも意義があると思います。

〔最後にひとこと〕
棚橋:身の丈に合った、子どもとの関係、バスで行ける楽しい場所について、持ち帰りたいと思います。

神:できることから始めたいと思っています。市が市民に乗ってくれという話がありましたが、自分も時間帯が合わず乗っていない。管理職は乗るようにしたい。イベントの効果測定として、アンケート、ヒアリングを行っていきたいと思います。

加藤:網計画は遺言と同じです。担当者は代わっていきます。「前任者が凄かった」で終わるのではなく、計画に書いてあることを実行すれば誰でもうまくいくようにしておく。1年も経てば自分でやってみようと思うし、交通をやることが面白いということを役所に広めてもらいたい。
そして、私は紋別バスターミナルに行ってみたいです。バスが集まってくるところですから、便利なところで何かができるところのはずです。温泉を持ってくるとか、高齢者の憩いの場にするとか、子どもの学習の場とするとか、いろいろ考えられます。

高橋:バス会社に小さな成功体験を得てもらう。3割バッターを目指してもらい、ダメなら次を考えるオープンな組織が必要だと思いました。
行政はミッションを明らかにすることが必要です。バスがない町は生き残れません。ミッションをパッションを持って取組むことが重要です。

(文責:松本公洋)