【参加報告】「都心エネルギーアクションプラン」キックオフフォーラム②

パネルディスカッション『持続可能なまちづくりに向けた官民連携とパラダイムシフト』

◆コーディネーター
村木 美貴 氏(千葉大学大学院工学研究院地球環境科学専攻教授)
◆パネリスト
藻谷 浩介 氏(日本総合研究所調査部主席研究員、地域エコノミスト)
久野 譜也 氏(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授、健康政策)
井上 俊幸 氏(三菱地所株式会社開発戦略室長兼開発推進部長)
秋元 克広 氏(札幌市長

秋元:札幌市は2022年に市制施行から100年を迎え新しいステージに入る中で、少子高齢化も加速します。コンパクトなまちづくりが大前提になりますが、世界的な気候変動が起きている今、低炭素な社会を創っていかなければなりません。生産年齢人口の減少やグローバル化など、時代の転換期においても誰もが安心して暮らしていける街にし、世界に街の魅力を創造し発信し続けられることが重要なのだと思っています。

まちづくりの長期計画の中で重要なのは、財政的なことも含めて持続可能な計画にしていくこととですが、都心エネルギーアクションプラン(以下、アクションプラン)ではこれにSDGsの視点を加えて策定しています。この中の戦略ビジョンには3つのテーマがありますが、これをSDGsの目標に連携性を持たせています。札幌の未来に向けて5つの重点プロジェクトを設定していますが、エネルギーについては5つめの「将来を見据えた魅力・活力あふれるまちづくり」となります。
都心部については、2030年の北海道新幹線の札幌開業に合わせて建物の建て替えが行われていますが、高度な都市機能を持たせるために民間活力の導入を促すとともに、札幌駅南側の交流拠点を一体的に開発することにより低炭素で持続可能な街を創っていきます。
このような中で、都心エネルギーマスタープラン(以下、マスタープラン)を策定し、まちづくり計画と一体的に展開することとなりました。さらにアクションプランでは、SDGsの視点を加えブラックアウトの経験を踏まえた強靭化による7つのプロジェクトを体系的に設定しています。
過日LEED for Cities(都市の環境性能評価システム、以下LEED)において、最高レベルとなるプラチナの認定を最高点で受賞したところですので、戦略的に街の魅力を高め、次の世代に引き継いでいきたいと思っています。

「スマートシティ×健幸なまちづくり」

久野:「スマートシティ×健幸なまちづくり」と題してお話させていただきますが、幸せに生きていくことが重要という視点で「健幸」という文字を使っています。独居者が介護に移行していくことがはっきりしていますが、その前に独りで食事をしている「孤食」も問題です。その割合は80代で3割、90代で5割となっており、年を重ねると確実に増えていきます。
一方、小・中学生の長期欠席者が18万人、若者の無業者が60万人、就業者の病気休業者が57.6万人、高齢者の認知症が439万人となっています。トータル574万人が問題を抱えていて、まちづくりがこれらの課題解決にどう寄与していくかということを考える必要があると思っています。

Walkable City
個人の健康問題としては、東京都(35%)・大阪府(43%)・愛知県(75%)における日常の移動手段が車という割合と糖尿病の患者数がほぼ一致していることが判明していますが、各自治体の住民の病気に対する知識は同じなので、人を歩かせるかどうかは街の構造の違いによります。つまり、歩かせる街にすることで、無関心な人を含めて健康増進に寄与することができると考えられます。

街がシャッター街のように不健康だと、行政が医療・福祉にかける費用も高くなります。私は、中心市街地等の様子を見るだけで、その街の医療・福祉にかかる費用がわかるようになりました。
「70歳以上で週3日以上外出している人の健康度が高い」ということに注目し、札幌を家から出たくなる街=「Walkable City」への転換が大きなポイントだと思っています。Walkable City はWHOも提唱していますし、世界の数々の都市もWalkable Cityに舵を切っています。

運動不足
厚労省によると、日本人の死亡原因の第4位は運動不足(1位 高血圧 2位たばこ 3位 高血糖)で、認知症(生活習慣病のひとつという認識になりつつある)になるリスクの1位でもあります。元々Walkable Cityは環境の視点から語られていましたが、健康に対しても非常に重要になっており、札幌市の場合では冬の間の歩く環境が課題になろうかと思います。
見附市(新潟県)では、健康増進施策の展開により1人10万円の医療費削減効果があり、介護費用においても1年間で3億円の抑制効果がありました。また、フライブルグ市(独)では車中心のまちづくりから歩くまちへと転換したところ、商業施設の売上が4割増えました。
歩数を一歩増やすと0.061円の経済効果があります。

インセンティブ
札幌市で行った実験で、ICカード・サピカのポイント付与をインセンティブにしたところ多くの人が参加し、チカホに誘導する仕掛けの効果で、同様の実験を行った道外3都市(遠野市、見附市、指宿市)よりも冬場の歩行数が伸びました。これは日本初の成果です。オリンピック・パラリンピックのレガシーとして、高齢になっても障がいがあっても幸せでいられるまちづくりを行うことが重要なのだと思っています。

井上:大丸有(大手町・丸の内・有楽町)は東京駅~皇居の間120haで、当社はエリア内の100棟のうち約30棟を管理しており、約28万人の昼間人口があります。(夜間人口は6万人)
当社が様々な取組みができる背景には、複数の地権者との集まりやまちの未来を考えるグループなどに参画がすることで、まちの将来像を共に描いていることと、そのためのガイドラインがあることがあげられ、1000年先を見据えた計画もあります。

強み
我々の強みのひとつに、昭和40年代から地域冷暖房のネットワークを構築していることがあげられます。ネットワークは今も拡げていますが、導入当初は蒸気暖房で、現在は輻射空調(温水・冷水等による放射を利用)を導入しています。このネットワークがあることで、新しいプラントを入れると個別の建物だけではなく、エリア全体に波及します。常盤橋プロジェクトでは、高度防災都市と環境負荷の低減を目指し、資金調達のために投資家に評価を得られるようグリーンボンドというものを発行しています。

これから
街全体としては、スマートシティとして丸の内だけではなく、東京のまちづくりにおいて丸の内に何ができるのかといったビジョンづくりを行っています。その中で、丸の内の4,200社の就業者や来街者等による人々の交流を活性化させていきたいと考えていますし、丸の内の機能をストップさせないために、万が一の時のリスク対策も合わせて考えています。
提供できる強みはリビングラボ=実験の場(仲通り、お店等)で、そこでの気づきをまちづくりに活かしていければと思っていますし、今後は個人のクリエィティブティを伸ばせるようにしたいと考えています。

歩いてもらうために

- 札幌市の公共交通分担率は35%と低いですが、歩いてもらうために街の付加価値や魅力を高めにはどうしたらよいでしょうか。

久野:桜並木のように、車よりも歩いて見た方が良いと思えるものを整備するか、物理的に車を入れないようにすることが考えられます。また、全国1,700の自治体で実証していますが、歩くことが必ずしも介護・医療費の抑制にはつながっておらず、インセンティブで動かない人が課題となっています。海外では、自然と歩いて行けるように公共交通が整備されていますが、日本の場合は「健康のために公共交通に乗ろう」といった理念先行形になっています。

藻谷:歩かない人は保険料を増額、歩く人は保険料減額という‟ディス・インセンティブ“の導入はどうかと思っています。それが難しければ、最初から保険料を上げておいて、歩いた人の保険料を減額することも良いのではないでしょうか。また、札幌市の場合は、雪が降る前に歩き貯め(冬眠前の動物が食いだめするように)や、近隣の山々にハイキングコースを整備するのも良いと思います。

秋元:トータル的な政策が必要だと思っています。公共交通は欧米だと運賃収入で賄えるのは4割程度ですが、日本は独立採算制で、未だに道路整備が中心です。例えば、健康増進で保険料を下げた分を公共交通の整備に回すというようなことがあっても良いと思っています。

井上:丸の内と大手町の間は約2kmなので、地下鉄で1駅乗るかタクシーに乗るか迷うところですが、MaaS(Mobility as a Service)により「歩くと何か楽しいことがある」といった情報が事前にわかると歩く人もいるのではないでしょうか。

-情報提供が大事ということですね。

久野:ポートランド市では、商店街を歩いていると建物がガラス張りで中が見えるので歩いていると楽しいのですが、例えばイオンなどのショッピングモールですと、外から建物の中が見えないことが課題になるので、外から中が見えるような街の見える化が必要です。

-SDGsなどとの結びつきはどのように考えていけば良いでしょうか。

井上:大丸有は建物だけではなく、道路や建物と建物の間(公開空地)もまちづくりと考えています。
   そこでやっている活動をSDGsの目標でラベリングすると、どこができていてどこが足りないのかがわかるようになったので、今考えているところです。

-札幌市でもLEEDの認証の追加として、何をしていくかという参考になるのではないでしょうか。

秋元:できるだけ見える化をしていき、エリア内で不足しているものは何かというものを明確にしたいと思いますし、効果を数字で見えるような形にしていきたいと思います。

企業・行政との連携

-都市づくりにおいて、企業・行政との連携をどのように行えばよいでしょうか。

井上:千代田区との懇談会を設け、将来像を共有しています。我々が何かしたい場合(都道・区道などの使用)、一般的に行政は規制する側ですが、ガイドラインに沿った部分についてはスムーズにできます。その一方で、エリアンマネジメントの財源の確保は苦労していますので、行政とうまく財源確保ができれば良いと思っています。

藻谷:三菱系が多く企業主導の大丸有と違って他の地域は地権者がバラバラです。札幌駅~大通周辺の面積は大丸有とほぼ同じで地価が安く自然も豊なので、大丸有よりやりやすくてできることが多いのですが、地権者がバラバラですから行政側の音頭が必要です。ただ、三菱さんはクリエイターと連携しているのでイベントのセンスが良いですが、公共がやろうとすると格好悪くなることが多いので、うまくやる必要があります。

井上:東京駅前や皇居周辺にはふさわしい形があるとは思っています。

秋元:都心のまちづくりにおいては、価値やビジョンについて時間をかけて将来像の共有をしました。ただ、現実には地権者がまとまっているエリアとそうでないエリアとで差があります。

久野:職員力をあげるために外部との連携を作っていくことが重要だなと感じています。札幌市の場合は200万都市・政令市であるがゆえに自分たちでやれてしまう中で、どことどう組むのかは感心のあるところです。

もうひとつは「性能入札」についてです。これは見附市で導入していますが、根本の部分だけ行政側が仕様書を決め、細かな仕様は民間で作るようにすることで、民間が儲かるように仕様書を作ることができるものです。黒字の場合は折半で赤字の場合は民間が持ちますが、見附市で行っているこの入札では全て黒字です。

災害・防災とマーケット

-災害に強いことや防災を、どのようにマーケットにつなげられるのでしょうか。

藻谷:本当は安全性が保険料に反映されていなといけないと思います。札幌市は日本で乾いた広い土地に開かれた唯一の街で、ブラックアウトも経験したし、世界一降雪にも強いので、札幌で活動する場合は保険料が安くなるという考え方です。ただ、それをやると、国内の街は低湿地帯に造られているので、全体的に評価が下がることになります。

井上:丸の内はオフィス業務を止められない場所ですが、カーボンフリーをどう進めるかということと業務の継続を両立させていかないとなりません。普段から防災もまちづくりのひとつと考えており、防災用に何かを整備すると費用がかかるので、普段使っているものを防災にも使えるようにする工夫をしています。

札幌市へのエール

-最後に札幌市へのエールをお願いします。

藻谷:大きくなる程不利になることがありますが、札幌市はアジアにおける計画人工都市の中で極めて緑の多い街で、世界から人々が集まって来ています。高齢化は仕方ないにしても子どもが生まれないのが唯一の課題ですから、ここを改善してほしいと思います。

久野:我々が‟蜜の味“と言っている「楽にすることが幸せだ」という価値観がありますが、それを「少し不便にする」という価値観に変えていく必要があります。少し不便にする際に、ある意味一番の抵抗勢力は市民になります。そのために、価値観の転換を含めた人づくりを行う政策が重要です。無関心層は興味のない情報をとっていないことがはっきりしていますので、そういった人々に情報を届けなることができないと、持続可能で世界の最先端となる可能性を秘めている札幌市のまちづくりはできないのではないかと思います。

井上:我々は丸の内だけ栄えていれば良いとは思っていません。国内でオフィス需要を取り合っているだけでは早晩共倒れしますので、海外から日本が注目されないといけませんが、国内にオフィス街が数多ある中で丸の内だけ目立っていても魅力に欠けます。地方の様々な魅力を日本の魅力として海外に売り込んでいかなければなりませんので、当社は宮崎県や浜松市と連携協定を結んでおり、地方の魅力を伸ばすために東京や丸の内を使えと言っています。
札幌市がLEED for Cities のプラチナを取得したことは絶好の武器ですが、その後に何を発信していくのかが重要だと思っています。

秋元:ありがとうございます。みなさまからのご意見をまちづくりに活かしていきたいと思います。
今あるいいものと海外からの評価、一方で人口構成が変わっていくという現実を共有するとともに、無関心層へのアプローチをどのようにしていくかを考えていきたいと思います。また、札幌市のいいところと不足している部分を見える化して物事を進めていければと思いました。

村木:マスタープランとアクションプランの実現の上で札幌市の価値を高めるには、複合的に対応していかなければならないというのが我々のディスカッションだったと思います。
公共と民間の価値の共有、将来像をどうするか、歩きたくなる仕掛けをどう創るかといった複合的な取組みが札幌市の都心には求められていますが、ぜひ実現させてほしいと思います。私たちはサポーターなので、より多くのサポーターが集い、札幌市の価値を上げ、世界から人々が来たくなる街になればいいなと思っています。
本日はありがとうございました。

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